【投稿者:芝猫さん】
これまであまり縁のなかった茨城県……しかしあるきっかけを境に頻繁に訪れるようになりました。
なんてことはない、飲み会で意気投合した職場の後輩の存在です。
彼女は一風変わった個性の持ち主で(良い意味で)眺めていて楽しいキャラだったのですが、なんとなく気が合ったのか以降頻繁に出かける仲になります。
今回は、そんな彼女と車でドライブを計画した際の(相当怖い思いをした)出来事をご紹介したいと思います。
廃墟・廃線巡りから一変、奇妙な廃村に迷い込んでしまった話
季節は夏(7月初旬)、天候はあいにくの雨……。
梅雨明けが間もないこともあってか、湿度の高い過ごしにくい日々が続いていました。
今回の目的は「新鮮な海産物を漁港で食べること」と、「その付近に点在する廃墟を探してみよう」と言う何とも謎めいたプランでした。
廃墟探しとは言っても、廃墟の専門家でもなければマニアでもないため、山や森に入り道なき道を探索すると言った本格的なイメージではありません。
あくまで車で行ける範囲で楽しもうと言うソフトな感じの廃墟巡りです。
この日の序盤は何事も順調でした。
朝早くに訪れた漁港の海鮮丼は本当に美味しかったですし、その後もナビを見ながらかつて鉄道が走っていた痕跡を見つけるなど思いのほか充実していたのです。
そして廃墟巡りがいつのまにか廃線巡り(廃駅や鉄道跡)に特化していました。
理由として、風化が激しい廃屋とは異なり、かつて鉄道が走っていた痕跡である廃線に関してはレールが金属であるため比較的残りやすい性質をもっています。
軽井沢の方でも旧信濃鉄道のトンネルが今でも観光地として保全されていますからね。
そして廃線を探すのに一役買うのが「古いカーナビ」です。
2000年代に入ってから廃線となった鉄道も日本には数多くあり、それ以前の1990年代に製造されたカーナビにはこれらの鉄道駅、そしてレールまでもがクッキリと画面に映し出されます。
まぁ当時は現役で稼働していた路線ですから、カーナビに記載されていないと逆におかしいですからね。
最新型では削除されてしまったカーナビと、古いカーナビを並べてみると微妙な違いがあって面白いですよ。
ちなみに古いカーナビゲーションは年式の古い車を中古で購入すれば高確率でついてきます。
日常生活で使えるかは分かりませんが……。
時刻は16時、7月だと言うのにあたりは薄暗くなっています。周囲が暗くなってしまうと廃線跡を探すことは困難を極めますから、とりあえず今日は撤収という流れになりました。
しばらく海岸線を走っていたので、ショートカットをしようと小高い山の方へ車を進めます。
ナビには道が表示されているのですが、車が1台通れるかどうかの狭さです。
慎重に車を走らせていくと、今まで木で覆われていた景色が石垣に変わっていました。
どうやら人の生活圏に足を踏み入れたようです。
見た限り私有地ではなく一般公道ですから、悪いことをしているわけではないのでそのまま車を進めます。
すると目線の先に、古めかしい日本家屋が姿を表しました。
それを境に小規模ですが、日本家屋や小屋のようなものがポツポツと点在しています。
住人も少数ですがいるようですね。
私「へぇ~テレビで見たことあるような景色だねぇ。」
後輩「集落ですかね。」
私の目線はあるひとつの日本家屋に集中します。
ボロボロの壁に比較的最近書かれたような文字で、習字がたくさん貼り付けられていたのです。
書いてある文字は「四面楚歌」「鬼畜米英」「男尊女卑」「ねぇね」など……今となってはかなり古い時代の内容であることは明白でした。
同時にこのあたりの集落が、何やら歪んだ空気で満たされていることを察します。
私「この集落どこまで続くんだろう。」
後輩「…………。」
私「人も高齢者ばかりだし、頭もチリチリだし、何かヤバい感じするよね?」
???「……えぇ、そうですね……。」
……ん!?
私「今誰か話しかけてこなかった?」
後輩「…………。」
後輩の異様な雰囲気に、私もようやく物事を理解しました。
後輩「気がつきましたか? あまり見ちゃいけないと思ってなるべく前だけを見ているんですが、全員こっちを睨んでます……普通じゃない目で……。」
あちらこちらから注がれてくる異常なまでの目線。
そのほとんどがかなり高齢な人なのですが、服装が今の文明社会とは到底思えないほどボロボロなものを着ており、まるで土の中から這い上がってきたのではないかと錯覚するほどでした。
後輩「早くここから立ち去りましょう!相手が人間じゃなかったら何をされるか分かりません!それにこの先行き止まりだったらこの車襲われますよ!」
……人間じゃない?
……そんなことあるものか……。
霊感がないと豪語していた私にも正直焦りはありました。とうとう見えてしまったのかと。
そのとき車の窓に老婆の顔が迫ってきました。
車は遅くとも走ってはいたので数秒で通りすぎていきましたが、そのときの老婆の口元がこのように動いていたような気がします。
——–「おまえじゃない」——–
少し開けた道になったので、徐々に速度を上げながら走り続けます。
カーナビを見るとこの先に国道がありそうです。
「助かった……。」
このときカーナビを見た際に、私たちはあることに気がつきました。
今まで車に付いていた古いナビを見ながら走っていたので所々に建物や道があることは把握していましたが、スマホで周辺の地図を見た際にそれらの道が全く映っていなかったのです。
これって……。
地図から末梢されたと言うことは、先程まで通ってきた道は今となっては存在しないと言うこと、或いは何らかの理由によって消されたということ……ですよね?
私たちみたいな好奇心旺盛な人たちがここを訪れないように……とか?
古いナビには◯◯地と書かれていたので、おそらくこの場所には元々集落があったことを匂わせます。
つまりは先程私たちが見てきた道や建物は“集落跡”と言うことになるのかもしれません。
それなら住人は……?
改めてその集落を調べてみると出てきたのが……「姥捨山」
疑問を持ちながらも落ち着いたところで改めてスマホで調べてみることにしました。
検索キーワードは「茨城県 N市 ◯◯ 廃村」……
すると僅かながらもいくつか情報が出てきたのです。
そこにはかつて何があったのか……その情報は短いながらも私たちの思考を凍りつかせるには十分な内容でした。
私たちはこれほどまでに強烈なフレーズを日常的に見かけることはほぼないと思います。
そのフレーズとは……
——–「姥捨山(うばすてやま)」——–
ここで先ほど老婆に言われた(ような)「おまえじゃない」の意味が繋がったような気がします。
さきほどの住人に実体がある、ないに関わらず、ずっとあの地で誰かが迎えに来るのを待っているのではないでしょうか。
姥捨山自体が伝承のひとつなので現実にあるものなのかは定かではありませんが、逆に現代においてその機能(姥捨山としての)があの地で行われているとするなら、それはそれで恐怖だと思います。
この場合は実体がないよりある方が怖いですよね。
「幽霊より生身の人間の方が怖い」とはよく言われたものです。
後日談ですがこの体験のすぐあとに、どこかの雑誌のフォトライターがこの地を訪れたそうです。
そこにはボロボロに朽ち果てた住居の残骸がいくつか点在していたそうですが、人の姿は全く見当たりません。
ただ睨み付けてくるような強烈な目線はジリジリと感じていたのだとか…………。
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