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【事故物件の怖い話】被害者6名。とある物件で実際に起きた連続怪死事件の全容

FM都市伝説

【投稿者:片目の子猫さん】

私は、大手のMという不動産会社で5年前まで経理をやっていました。

経理なので、一日中机に向かって数字とにらめっこしていたわけです。

それだけに、現場での生々しいエピソードやうわさ話は、否が応でも耳に入ってくるのです。

本日は、この会社内でひそかに語り継がれている実際に起きた事故物件にまつわる話をご紹介したいと思います。

M不動産の管理物件で起きた連続怪死事件

1970年代の半ば頃のことです。

M不動産は、練馬区のある土地で建売住宅を売り出しました。

その土地は、バス通りから分かれた道の先の、さらに小道を入ったところにあります。

つまり、狭い、行き止まりの陰気な場所なのです。

そこに、建坪20坪ほどの家を、12軒並べて建てて売り出しました。

なにしろ狭い家ですから、1階はキッチンと洋間とバス・トイレ、2階は洋間が2つだけ、という間取りです。

ただ、外見だけは豪華に見せてあります。

そういうことは不動産屋が得意とすることです。

資料室に保存してある写真を見たのですが、なんとも陰湿な場所で、チャチな建物でした。

今から見るとそうなのですが、当時は輝いていたのでしょうね。

実際、この12軒の家は、すぐに完売しました。

ちょうど、団塊の世代が結婚をした時代だったので、家の需要が多かったのです。

どんな家でも、建てれば売れる、という古きよき時代でした。

さて、12軒の中で、いちばん奥の家を買ったのがAさんでした。

奥さんと娘の3人家族です。

Aさんは有楽町の会社に勤めるサラリーマンでした。

奥さんは専業主婦で、娘は、当時、幼稚園に通っていました。

どこにでもあるような、普通のサラリーマン家族だったのです。

周囲の家との近所付き合いも上手くいっていました。

6年目に事件が発生する

そして——、家が建ってから6年目のことです。

それは冬の満月の夜でした。

近所の人たちは、Aさんの家で大きな音がするのを聞きました。

家具が倒れたり、ガラスが割れるような音が、繰り返しするのです。

その上、悲鳴のような、怒号のような声も聞こえます。

行き止まりの狭い場所に大きな音があふれました。

近所の人たちは、びっくりしました。

一体何事か?

壮大な夫婦喧嘩をしているのでしょうか?

普段付き合っているAさんの性格からして、あんな夫婦喧嘩をするはずはない。

もちろん、他人が知らない家庭の事情もあるでしょうが……。

まさか、強盗でも入ったのでしょうか?

強盗なら、いちばん奥の家じゃなくて、道に面した逃げやすい家に入るはずだ。

それとも、奥から順番に強盗するつもりなのか……。

いずれにしても、関わりあいになりたくはありません。

近所の人たちは、何もせず、しっかり自分の家に鍵をかけて、眠れないまま朝になるのを待ちました。

朝になって−−。

近所の人たちが外へ出て、昨晩のことを話し合いました。

Aさんの家は雨戸が下りたままです。

もちろん、シーンとしていて、物音は聞こえません。

人々は相談して、様子を見に行こう、ということになりました。

インターフォンを鳴らしてみます。

何度鳴らしても、応答はありません。

念のため玄関のドアを開けてみると……、そのまま開きました。

カギがかかっていないのです。

近所の人たちは、「Aさん、おはようございます」と声をかけながら、玄関を見ました。

そこには……、靴や傘などが乱雑に散らばっていました。

靴箱の中身などが、すべてまき散らされているのです。

人々は、驚き、顔を見合わせました。

室内はどうなっているんだろう。

Aさんたちはどうしたのだろう。

人々は、「Aさん、いらっしゃいますか?」と声をかけながら室内へ入りました……。

室内もメチャクチャです。

棚やタンスなどは倒れていて、衣料品がまき散らされていて、ガラスの破片が散乱しています。

大地震にでも遭遇したような状態です。

ソファが切り裂かれています。

地震でソファが切り裂かれることはありませんが。

人々は、割れたガラスを避けながら、慎重に部屋を歩きました。

キッチンへ向かいました。

キッチンへ入りました……。

そして——、悲鳴を上げたのです。

Aさん一家は、キッチンで死んでいました。

3人が、食器の破片の山の中で、寄り添うようにして倒れています。

周囲は血の海です。

壁にも血が飛び散っていました。

もちろん、すぐに警察に連絡しました。

警察が来て、捜査が始まりました。

怨恨の殺人事件なのか?

Aさんは優しい人で、他人から恨まれるようなことはありませんでした。

強盗殺人事件なのか?

強盗なら、わざわざ、いちばん奥の家を襲うはずはありません。

それに、この場所に来るまでに、もっと大きい家がたくさんあります。

強盗なら、そういう家の方を狙うのではないでしょうか。

ということだと、まさか、心中なのでしょうか?

しかし、心中するほどの深刻な様子は見えませんでした。

なお、これらの推理は近所の人たちが考えたことです。

警察が、捜査内容を話してくれるはずはありません。

事件が解決すれば、警察も話したかもしれません。

しかし、解決した、という話もありませんでした。

結局、現在まで事件は解明されていないのです。

この家は、リフォームして売りに出されました。

でも、人が死んだ、という事故物件ですから、売れません。

買いたい人が現れても、近所の人の話で事情を知れば、尻込みをするのです。

誰だって、人が死んだ家に住みたいとは思いませんよね。

それどころか、近所でも引っ越す人が出て来ました。

人が死んだ家の近くにいるのは嫌だ、というわけなのです。

1年後に1割、2年後に4割、と売値を下げました。

でも売れません。

そのうち、あの家にはAさん一家の浮かばれない霊が漂っている……、などの噂まで出て来ました。

会社としても手の打ちようがありません。

不良債権なのでした。

そこに救世主が現れました。

Bという夫婦がこの家を購入したのです。

Bさんは易者(えきしゃ)で奥さんは星占いをしている、という占い一家でした。

そういう商売ですから、人死にがあった家でも気にしませんでした。

浮かばれない霊が家に残っている、というような噂があっても、私達が除霊しますよ、と涼しい顔をしています。

夫婦2人で住むにはちょうどいい広さだし、値段は安いしい、いいことずくめだ、と喜んでいたのです。

しかも、仕事場が池袋だったので、通勤に便利だ、とのことでした。

Bさんは、家を“クリーニング”して引っ越して来ました。

M不動産の販売担当者Yが、契約が終わった後で挨拶に行った時のことです。

「まあ、どうぞ見て下さい」と、Bさんが家の中を案内してくれたそうです。

この販売担当者のYは、私が経理として働いていた時は、定年退職した後に相談役として会社で働いていました。

忘年会のとき、彼から直接に話を聞いたことがあります。

「オレとしては売れてほっとしていたんだが、Bさんも喜んでいたよ。なにしろ、値段は超安値だったからな」

「そうでしょうね。家一軒は、値の張る買い物ですから」

「家の中を案内してくれたんだが、2階の部屋に神棚があったんだ」

「神棚って、仏教じゃなくて神道の、あれですか」

「そう。なにもない部屋で、壁に神棚だけがあった」

「神棚で、Aさん一家の霊をクリーニングしたんですね」

「まあ、そういうことなのだろうな」

「易者らしいですね」

「そう、餅は餅屋、そういう方面は詳しいんだと思うよ。ところが……、だ

「はい?」

「おまえ、神道の神棚って、知ってるか?」

「いいえ」

「オレは、商売柄、あるていどの知識はあった。普通は、中央に丸い金属の鏡があり、左右に紙幣と榊があるんだ」

「そういうの、どっかで見たことがあります」

「Aさんの神棚もそうなっていた。そして、水と酒、それに穀物なんかが供えてある……、と、ここまではいいんだが」

「何です?」

「何かアンバランスなんだな……、お供えの置き方が。それに……」

「それに?」

「頭が痛くなったんだ」

「どういうことです?」

「その部屋に入ったら、何かこう……、頭が痛くなって……、不気味な……、背筋がゾっとするような……」

もちろん、そんなことBさんに言えません。

Yは、「お買いあげありがとうございます」と言って、家を出たそうです。

さて、Bさんは、この家は運を上昇させる力を持っている、とご近所に言っていたそうです。

この家に引っ越してから、Bさんの占いはよく当たる、と口コミで評判が上がってきたそうです。

近々、テレビのワイドショーの中で、占いコーナーを担当することにもなったそうです。

順風満帆。

そして6年後……再び事件が

そして——、Bさんが引っ越してきてから6年目のことです。

春の満月の夜、近所の人たちは、Bさんの家で大きな音がするのを聞きました。

家具が倒れるような音がします。

悲鳴のような、怒号のような声も、繰り返し聞こえるのです。

近所の人たちは、びっくりしました。

あの時と同じだ!

今度は、朝まで待たず、すぐに110番通報しました。

警察が到着しました。

警官がドアを開けようとすると、カギがかかっていました。

警察の専門家の応援を頼み、カギを開けましたが、ドアチェーンもかかっていました。

ドアチェーンを切り、中へ入りました……。

そして——、警官は、何も発見出来ませんでした。

誰もいないのです……。

居間にはテレビがついていて、机の上にはウイスキーの入ったグラスが2つ、それにピーナツの入った皿が置いてありました……。

たった今までテレビを2人で見ていたけれど、すぐ戻るつもりで部屋を出た、という雰囲気なのです。

2人はどこへ行ったのだろう?

警官は、家中を調べました。

家の中は整然としていました……。

家具が倒れたりしていることはなかったのです。

さっきの、ガタガタ、ドスンという音は何だったのだろう?

キッチンのシンクには、食事の後の皿が積まれていました。

寝る前にまとめて洗うために、とりあえず積み重ねておいた、という感じなのです。

他の部屋も、おかしなところはありません。

家の中は、何かの事件があった、という気配は見つからないのです……。

つまり……。

食後の皿洗いは後回しにして、2人で、好きなテレビを見ていた……。

実際、テレビには時代劇が映っていたのです。

そこに、たまたま電話がかかってきた……。

それで、ソファから立ち上がって電話を受けた……。

電話がかかってきた、というのは例えです。

受話器は、外れていませんでした。

ともかく、何かがあって、ちょっとだけ席を外した……。

こういう状況だったのです。

普通の家庭の、普通の日常生活の一コマなのです。

不思議なことはありません。

もちろん、2人がいないのが不思議なのですが。

なお、これらの部屋の中の様子は、警察が近所の人たちに話したものではありません。

そういうことを、警察はベラベラ喋りませんよ。

では、なぜ分かったのか。

それはすぐ後でご説明します。

ともかく、Bさん夫婦は、カギのかかった家の中で消えてしまったのです。

結局、Bさん夫婦は行方不明のまま、現在まで発見されていません。

この事件で、M不動産はあわててしまいました。

家のローンが、まだほとんど回収されていません。

家を買った人が死んだ、とはっきりしているのならまだしも、行方不明では宙ぶらりんなのです。

M不動産は保険会社と相談して、なんとかローンの回収を試みました。

その過程で、行方不明の事情を知る必要があり、警察の捜査ファイルを見る権利が生まれたのです。

こういうことで、M不動産の関係者は、家の中の様子を知ることが出来たのでした。

なお、警察は、Bさんの同業の占い者たちにも話を聞いたそうです。

心当たりはないか、という質問です。

誰も、心当たりはありません。

ある刑事が、「どうだね、行方を占ってくれないか」と冗談を言ったら、聞かれた易者は、苦笑いをしたそうです。

ただ、1人の易者だけは、行方不明の状況を聞いて、顔を固くしたそうです。

刑事ですから、隠し事をしている者は分かります。

でも、この易者は、犯罪関係の嘘をついているのではないようでした。

ただただ、恐怖で顔が固くなってしまった……、そんな感じだったそうです。

刑事も、それ以上は追及しませんでした。

時間が経過して、裁判所が失踪宣告を出して、ローンの問題は解決しました。

しかし、Bさん夫妻がどうなったのか、現在まで分かりません。

この家は、そのまま空き家として残されました。

2回も不思議な事件があったのでは、リフォームしても買い手はいないだろう、と会社は思ったのです。

それどころか、まわりの家々も空き家になっていきました。

奇怪な家の近所には住みたくない、ということで引っ越しが続いたのです。

そして、噂がありますから、新規に引っ越してくる人はいませんでした。

元々せせこましい場所ですので、とうとう、さびれた廃墟の群れ、のようになってしまいました。

根も葉もない噂も出ました。

あの家から、家具が壊れる音がした——。

あの家に、白い人影が入って行った——。

こういう噂が立ち、幽霊屋敷を探検しよう、という不良たちが出入りするようになりました。

もう、どうしようもありません。

しかし会社は営利事業ですから、この土地をこのままにしておくことは出来ません。

最後の一家が引っ越して完全に無人になると、M不動産はすべての家を取り壊しました。

新しく、独身専用のマンションを建てることにしたのです。

そして——、事件のあったあの家を取り壊したとき、奇妙なものが見つかったのです。

事故物件取り壊しの際に見つかった『奇妙な文字』

北側の壁の内側に、見たこともない文字が書いてあるのが見つかりました。

3メートル平方くらいの大きさの場所に、紫色でビッシリと文字が書いてあるのです。

単なるいたずら書き、というようなものではありません。

整然と文字が書き連ねてあるのです。

もちろん、内容が読めないのですから、厳密に言えば文字なのかどうか、本当のことは分かりません。

でも、お墓の卒塔婆(そとば)に書いてある梵字(ぼんじ)のような形のものですから、まあ、文字なのでしょうね。

取り壊しの業者が発見し、念のため、M不動産に連絡しました。

これ、壊してもいいのか、という質問です。

何だか不気味なものだから、うっかり壊して祟りでもあったら困る、と思ったのです。

もちろん、M不動産に心当たりはありません。

一体、誰が、いつ書いたのだろう?

新築後、この家を工事したのはAさんの事件の後のリフォームのときだけです。

リフォームでは室内の壁紙を取り換えるだけですから、壁の内側に字を書くことは不可能です。

家の所有者であったAさんかBさんが書いた、ということも考えられます。

ただこれは、いちおうの可能性として考えておこう、というくらいのことです。

壁の内側に文字を書くとなると、内装を剥がしての大工事になります。

そんな工事をしたという話は、誰も聞いていません。

ですから、AさんかBさんが書いた、という推理は却下。

ということで、消去法でいえば、建てたときに書いたということになってしまいます。

しかし、それも不可能です。

新築の現場は大騒ぎですから、のんびり字を書いている暇はありません。

百歩譲って誰かが書いたとしたら、「お前何やってるんだ?」とまわりの人が気付くはずです。

しかも、M不動産の人たちも建設現場を出入りしていました。

字を書いているのを彼らが見つけたら、「大切な商品に何をする」と怒ったことでしょう。

結局、誰が、いつ、どうやって書いたのか、不明のままです。

ともかく、もうこれ以上気味悪いことはごめんだ、ということで文字の書いてある壁も壊しました。

建物の残骸を片付けて、更地にしました。

そして、念入りに地鎮祭をやってから、新しくマンションを建てました。

それ以来、この場所におかしなことは起きていません。

さて、この解体工事のあった年にM不動産へ入社したWという者がいました。

Wの上司Tは、奇妙な文字が見つかった、という連絡を受けて現場へ行ったのですが、そのとき、Wを連れて行きました。

Wは、AさんやBさんの事件は知りませんでした。

会社としても、わざわざ新人研修で教えることではありませんよね。

業務上必要なことしか教えませんから。

Wは、Tに聞きました。

「先輩、あれ、何ですかね?」

「さあ、分からんなぁ。家を買った人が、改築のときに書いたんじゃないかな」

上司のTは、これまでの事情を知っていましたが、それをWに教えることはしませんでした。

Wには、何も知らない、として返事をしたのです。

もう、変なトラブルは御免だ、という気持ちだったのです。

Wは、この文字を写真に撮りました。

カメラ機能付き携帯電話が安くなる前のことで、フィルムのカメラで撮影したのです。

上司のTは、Wに聞きました。

「何で写真を撮るんだ?」

「何でって、念のための記録ですよ。何か不都合がありますか」

「いや、その……、別にないよ」

ここでいろいろと事情を話せば、社会人1年生でがんばっているWが、余計なことをするかもしれません。

Tは、無関心な態度にしておいたのです。

そして、Tは、工事現場の監督に、いたずら書きだろうから気にせずに取り壊してよい、と言いました。

取り壊して処分して、もうこれで一件落着、ということです。

Tの頭の中には、この土地を生かして利益を上げることしかありません。

Wも、仕事に追われて、写真はそのままにしておきました。

どうにかする、という当てはなかったのです。

ところで、Wは、中堅の文系大学を卒業しています。

諸般の事情から、大学名は伏せておきます。

その大学の就職課から、OBとして就職活動の経験を話してくれないか、という問い合わせがWにありました。

これはM不動産としてもPRになりますから、Wに、ぜひ行ってこい、と社命を出しました。

Wは、そうだ、ちょうどいいや、と思いました。

後輩へ向けての講演で大学へ行ったとき、Wは、インド哲学を研究しているK教授に例の場所を撮影した写真を見てもらおうと考えたのです。

ちなみに、Wは経済学部の出身です。

インド哲学なんて関係ありません。

ただ、その大学では、1、2年のときに、学部を越えた、教授を交えての学生交流のカリキュラムがありました。

その関係で外国語学部のK教授を知っていたのでした。

梵字(ぼんじ)のような文字だから、K教授なら分かるかもしれない、と思ったのです。

K教授は、写真を見た途端、少し顔色を変えて言いました。

「これ、どこで見つけたのだね?」

Wは、壊した建物の内壁から、なぜか見つかったのだ、と説明しました。

深い意味はない、ただ、興味本位で何が書いてあるのか知りたいだけだ、と付け加えました。

Wには、まだ学生気分が残っていたのでしょうね。

「ふうん、それで、誰が書いたのかね?」

「分かりません」

「この家に、何か変わったことはなかったかい?」

「別に、聞いていませんが」

確かに、Wは事情を知らなかったのです。

「先生、それで、一体、何が書いてあるのですか」

「これは、古代インドの文字……、だと思うけど、正確には調べないと」

さすがに大学教授ですから、憶測などは話しません。

K教授は、1か月後くらいに連絡をくれないか、それまでに調べておく、と言いました。

WがK教授の答えを知ることはありませんでした。

K教授のところから帰ってから6日目、Wは死んでしまったのです。

アパートの彼の部屋が火事になり焼死してしまいました。

もちろん、消防と警察が、火事の原因を調べました。

その結果、石油ストーブに給油中の事故だということになりました。

何かの事件、というようなことはなかったのです。

少なくとも、事件である、と消防や警察を納得させるだけの証拠はなかったのです。

上司だったTは、Wの実家への連絡など、後始末をしました。

そういう事をしながら、Wの死とあの奇妙な事件との間に関連があるのだろうか、と考えました。

それから2か月ほどして、K教授からTへ電話がありました。

Tは、就職活動説明会のことだと早合点したのですが、どうも話が違うようです。

K教授は、Wと連絡を取りたいのだが、と言うのです。

「それが……、実は……、Wは、亡くなりまして……」

「ええ!?それはまた……、思いがけないことで」

「はい、突然のことでした」

Tは、Wが火の不始末から死亡したことを話し、その上で、Wにどんな用事なのだ、と聞きました。

K教授は、文字の解読を依頼されたことを説明しました。

Tは、あっ!あのときの写真か、と思い出しました。

そして、あのことはもういいよ、と思ったのです。

Tは、素早く頭を働かせて、次のような提案をしました。

なぜWがそんな依頼をしたのか分からない。

しかし、会社の上司として、必要な手数料はお支払いする。

だから、Wが渡した写真などを引き取りたい。

このような提案です。

この裏には、口止め料を払うから、この件はなかったことにしてくれ、という意味が含まれています。

Tは不動産業界のプロですから、こういう方面の頭はものすごく働くのです。

K教授は、少し考えてから答えました。

「別に、お金などはいりませんよ」

「しかし……」

「Wさんは焼死したのですね?」

「はい」

「では、写真のネガなども焼けてしまった?」

「そうだと思います」

「分かりました。私がもっている写真も焼きますよ」

「感謝します」

以上で、この話は終わりです。

あの文字が何だったのか、K教授だけが知っているのだと思います。

なぜ、壁に書かれていたのか、どうやって書いたのか、なども、K教授なら分かるのかもしれません。

もっとも、聞いたからと言って、教えてくれるとは限りませんが。