【投稿者:U.Oさん】
通りすがりに見知らぬおばあさんから
「○○まではどう行けばいいでしょうか?」
と、道を聞かれました。
○○までの行き方を答えると、おばあさんはお礼の言葉とともに、ある物を渡してきたのです。
反射的に受け取ったそれは、手の平よりも一回り小さな黒い布袋で、表面には『御守袋』と、書いてありました。
見知らぬ人からの御守袋なんて、普通だったら不気味で受け取れませんよね。
でも、その時の私は何故か、「絶対に受け取らなければいけない」という妙な気持ちに捉われ、そのまま持って帰ってしまったのです。
家に帰り、机の上に置いた御守袋を何気なしに見ていると、不意に「今すぐ中を開けて確かめたい」という抗いがたい衝動が起きました。
おばあさんに貰った御守袋は、神社などでよく見かける御守と同じ造りをしていて、上部の紐を解くと中身が見れるようになっていました。
御守袋の中には小さく折り畳まれた白い紙が1枚入っていて、紙を開いてみると、そこには
『〇×呪送〇〇×××』
と、書いてあったのです。
〇と×の部分は漢字のように見えますが読むことが出来ず、唯一読めるのは『呪送』という文字だけでした。
「呪送…、のろいおくり?」呪いを送るってこと?誰に?私に?誰が?あのおばあさんが?取り留めもなく考え込んでいると、急に悪臭を感じました。
吐き気を催す程の生臭い匂いは、部屋の隅からしてきます。
臭いがする方を見ると、私と同じ背恰好の奇妙なものがいました。
顔も体もありますが、全身が文字通り真っ黒で、まるで暗闇がそのまま人の形になったかのようです。
「絶対に生きている人間じゃないし、良いものではない」と、ハッキリ感じました。
「アレは関わってはいけないものだ、アレから逃げないといけない」と本能的にそう思い、慌てて家を飛び出したのです。
幸いと言っていいのか、黒いものは一定の距離を保ったまま、それ以上私に近づいてくることはありません。
「追いつかれたらどうなるんだろう」と、恐怖心を抱えながら辿り着いたのは、私の実家です。
1人でいるのは怖かったので、実家ならば両親がいますし、親の知り合いに霊に詳しいAさんという方がいるので、何とかしてくれるかもしれないと思ったのです。
実家に着くと、出迎えてくれた親からは開口一番、
「生臭いよ、何があったの」
と、心配されました。
「実はこういうことがあって…。今もこの部屋の隅に黒いものがいる」と事情を説明すると、親がAさんに電話をしてくれました。
Aさんは仕事で県外におり、こちらに来れるのは明日の夜になってしまうらしく、一先ず電話でお祓いをすることになったのです。
電話越しにAさんが数十分程、何やら唱えると、さっきまで部屋の中にいた黒いものは、いつの間にか消えていました。
親と、「黒いものは消えたみたい。臭いもしなくなったしAさんにお願いして良かった」と安心し合っていたのですが、それもつかの間のことでした。
そのまま実家に泊まって翌朝起きると、黒いものは昨日よりも更に私の近くに居て、臭いも強くなっていたのです。
親も部屋中に漂う生臭い匂いに「ただ事ではない」と思ったのか、再びAさんに電話をしてくれました。
しかし、何度Aさんに電話をかけても繋がりません。
その内、家中にバチバチバチバチッ!と雷のように激しいラップ音が鳴り出し、それと同時に黒いものは私に更に近づき、とうとう背中におぶさってきました。
鳴り響くラップ音に漂う悪臭、そして背中に黒いものがおぶさっているせいか、うつ伏せのまま声も出せず金縛りのように固まっている私に、両親はパニックになりました。
私も内心パニックで、
「このまま呪い殺されてしまうのかも」
「どうしてあんな物を受け取ってしまったんだろう」
と、後悔していたその時です。
Aさんから電話がかかってきて、親に「御守袋の中に入っている紙を破って、ライターで燃やして」と指示をしました。
すると、紙をライターで燃やした瞬間、部屋中に
「ギィヤアアァアアァァァ」
という断末魔が響き渡った後、体の重みも悪臭も消えたのです。
後からAさんに聞いた話しによると、おばあさんがくれた御守袋に入っていた紙は、個人が作った呪いの札のようなものだそうです。
「おばあさん本人か、もしくはその身内が受けた呪いを無差別に他人に送って押しつけ、自分は呪いから逃れようとしたのだろう」
とのことでした。
あの生臭く黒いものは呪いが実体化したものらしく、私はもう少しで酷い目に遭うところでした。
素人が作った“呪いのなりそこない”だったからまだ猶予があったものの、本物の呪いならもっと危なかったようです。
Aさんに御守袋を渡してしっかりお祓いをしてもらったからか、それ以降、黒いものは見ていませんし、生臭い匂いも感じません。
例のおばあさんですが、その後一度だけ、道行く人に話しかけて御守袋を渡しているところを見かけました。
怖かったのですが、私のような目に遭ってはいけないと思い、御守袋を受け取った人に
「それ危ないから貰わない方がいいですよ」
と、声をかけておばあさんに返させました。
おばあさんは私をじろりと睨んできましたが、とくに何も言うことなくその場から立ち去っていったのです。
それ以来、同じ場所でおばあさんを見かけたことはありません。
今もまだあの時のように、おばあさんはどこかで他人に呪いを配り歩いているのでしょうか。