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【奇妙な話】遭難者

【投稿者:金之助さん】

これは、高校時代の国語の先生から聞いた話です。
先生は大学時代、山岳部に所属していたそうで、そこに伝わる怪談話だと言っていました。
今から50年近く前の冬のこと、その山岳部は長野県の槍ヶ岳に登ったのですが、天気が急変し猛吹雪に見舞われたそうです。
部員同士で声を掛け合い、山小屋のある場所まで歩みを進めていたのですが、ふと部長が気が付くと、最後尾にいた部員がいなくなってしました。
金之助というその部員は、最後尾を任されるだけの経験を積んだ学生だったそうですが、強い吹雪の中ではぐれてしまったようでした。
しかし、いくらはぐれてしまったとは言え、金之助一人のために部員全員を危険にさらすわけにはいきません。部長はそのまま山小屋に向かう決断をしました。

その結果、金之助を除く全員は無事に山小屋に辿りつき、そこで吹雪が収まるのを待つことになりました。
夜になっても激しい吹雪は止まず、部員たちは金之助を気に掛けながらも、なすすべがありません。
結局、部員達は山小屋に用意されていた布団に入り、翌日の為に早々に眠ることにしました。

その深夜、部長は一人目を覚ましました。

二階建ての山小屋の、二階の大部屋で部員たちは床に就いていたのですが、階下から物音が聞こえてくるのです。
部長は、布団の中で耳を澄まします。
物音は二階に続く階段から聞こえてきていることがわかりました。
それは、ゆっくり階段を上る足音でした。
(金之助か?)
部長はすぐにそう直感し身を起こそうとしたのですが、うまく体が動きません。
こんな吹雪の中よくぞ無事だった、と喜んで迎えねばならないと思いつつも、同時に金之助を見捨てた後ろめたさが部長の中にはあったのです。
また、金之助を見失って、既に半日以上が経過しています。
この猛吹雪の中、パーティで行動している自分たちだって危ないところだったのに、たった一人で半日以上歩き通して山小屋にたどり着けるでしょうか。
今、こうして階段を上っている彼は、自分たちの知る金之助なのでしょうか。
部長の逡巡をよそに足音はゆっくりと、しかし確実に二階へと近づいてきています。
一段、また一段……、遂に大部屋の引き戸の前で足音は止まりました。
安心と後ろめたさと恐怖、様々な感情が部長の心の中で混じり合い、彼は引き戸から目が離せなくなっていました。
闇の中、ゆっくりと引き戸が開けられます。
そこにいたのは、雪まみれの金之助でした。
ピッケルを振り上げ、その目はらんらんと見開かれ、部長をにらみつけているように思えました。
恐怖から、部長はそのまま気を失ってしまいました。

翌朝、吹雪が止んだので、部員たちはふもとに救助隊を要請しました。
金之助は、崖から滑落して亡くなっていました。
雪のために部員達からはぐれてしまい、道を誤ったものと見らました。
異様だったのは、金之助の遺体の状態でした。
彼の遺体は崖の下で、眼を見開きピッケルを振り上げている状態で見つかったのです。
あの晩、山小屋に現れたあの姿と同じでした。
あの時に、金之助はその命を落としたのかもしれない、と部長は思ったそうです。
以来、この大学の山岳部ではこの話を、雪山の恐ろしさと金之助の無念を悼むために、先輩から後輩へ代々語り継いでいるそうです。