【投稿者:黒木りりあさん】
あれは、10歳ぐらいの頃だったと思います。
当時の私はスイミング教室に通っていて、その日は定期的に開催される習熟度テストの日でした。
その日の結果次第でその後のコースやクラスが変わるため、普段のレッスンでもこのテストを常に意識して過ごしていたため、大きな意味合いを持つ日でした。
普段のレッスンではプールの各コースには複数人が泳いでおり、プールサイドに人は多くありませんでしたが、テストの日は違います。
誰がどの種目をどれぐらいのタイムで何M、正しいフォームで泳げたかどうかを確認するため、基本的には一つのコースには一人しか入ることができずません。
そのため、プールサイドに生徒が溢れかえっていました。
その日は私も、テストでの自分の順番を待つために、プールサイドに上がって中央のコースの列に並んでいました。
そのプールには、小さなサウナがありました。
レッスンが終わると生徒たちは必ずそのサウナに入ってから、中央の出入り口の階段を上がって更衣室へと上がるようになっていました。
サウナの扉はとても分厚いため重く、小学生の力で開け閉めするのはなかなか大変なうえに、開閉の度に大きな音がして、近くにいると空気圧を感じます。
そのため、サウナの出入りはとても目立ちますし、よっぽどのことがなければ気づく構造になっています。
プールの後のサウナは子供向けに温度が優しいためかとても暖かくて気持ちよく、私にとってもお気に入りでした。
テストのために並ぶのに飽きた私は、不意にサウナへと視線を投げました。
既にテストを終えた子たちがサウナの中で数人、座っていました。
羨ましいな、と眺めていたのですが、その中に一人だけ、それまで一度も見かけたことのない奇妙な男の子がおり目が留まりました。
他の子たちと比べても肌が青白く、まるで硬直したかのような姿勢のままピクリとも動かないのです。
気になってじっと観察していたのですが、瞬きすらせず目をかっと開いたまま、空虚に正面を見つめ続けているのです。
その異様な様子に、私は恐怖を覚えました。
列が進んだから前に詰めるようにと後ろの子に言われたため、ほんの一瞬だけ私はその男の子から目を離しました。
そして再びサウナに視線を戻すと、驚いたことに男の子は忽然といなくなっていました。
サウナを開け閉めする音も聞こえず、風圧も感じなかったのに、男の子がいなくなっていたのです。
そもそも、男の子はとても小さく華奢でした。
彼一人にあのサウナの扉を開けられるとは思えません。
不思議に思いつつも、私はあたりを見渡しましたが、プールのどこにも男の子は見つかりませんでした。
中央の出入り口の階段は私の並んでいた列の真後ろにあり、もし彼がそこを通ったのならば気が付くはずです。
プールサイドの床は水でびちゃびちゃなため、音を立てずに列の後ろを通って階段を使って出入りすることなど、できるはずがありません。
気になって私は、周りの友人たちにその男の子のことをたずねました。
驚いたことに、誰もそんな男の子は見ていないというのです。
そして、私の話を聞いて、みんな一様に気味悪がるのです。
そこで私は悟ったのです、きっとその子は、見えてはいけない子だったのだろう、と。
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