【投稿者:e.tさん】
小学生の頃、僕ら5年3組の仲良し4人組のあいだで「ある遊び」が流行っていた。
通学路の途中にある14階建ての高層マンションから、水風船を落とすという遊びだ。
マンションの入り口にある水道の蛇口で水風船を膨らませたら、エレベーターで14階まで直行。
階段の踊り場から、水風船を下の地面に落とす。
「パンッ!」という凄い音がして、地面には破裂した水風船の大きな円の跡ができる。
アスファルトが濡れてできる、濃いネズミ色の跡だ。
僕らは大きな破裂音とともに広がる水風船の跡を見るのが楽しくて仕方がなかった。
もちろん、悪いことをしているという自覚もあり。
でも、そのスリルが僕たちを余計に夢中にさせていた。
そんなある日。
授業終了のチャイムが鳴ると同時に「今日もやるか!」とみんなで顔を見合わせた。
いつもの仲良し4人組が一斉に駆け足で教室を出る。
14階建てのマンションにつくとすぐに、「今日はオレが一番だ」と競い合うようにして、
水風船を膨らませる作業に入った。
膨らませた水風船を持って、閉まりそうになるエレベーターに駆け込む。
すると、エレベーターには女の人が僕らより先に乗っていた。
長い黒髪の女の人だった。
人がいるとは思わず、大騒ぎでエレベーターに乗り込んだ僕たちは、とても気まずくなった。
「あっ、エレベーターの行き先ボタンを押さないと」と思ったら、14階のボタンがすでに押されていた。
いつもだったら僕らだけのエレベーター内は大騒ぎなんだけど、小声でヒソヒソ話し。
「今日は誰が一番大きな音出せるか競争な!」
「いーぜ!」
すると、女の人が
「そんなに大きな音がするんだ……」
「しまった!怒られる」と思って、見つめ合う僕たち。
いまさら水風船が見えないように背中に隠す。
けれど、女の人は一言いっただけで、僕たちを怒ることはなかった。
静まり返ったエレベーター内。
14階まで、とても長く感じた。
14階についてエレベーターのドアが開くと、僕らはいっせいに駆け足で飛び出した。
気まずい空間から、一刻も早く逃げ出したい気持ちだったからだ。
そして、いつもの階段の踊り場まで猛ダッシュ。
僕は気になって、走りながら後ろを振り向いた。
僕らとは反対の方に歩いて行く女の人の後ろ姿が見えた。
階段の踊り場に到着した僕ら。
「いいか!一番大きな音を出した奴が優勝な!」
順番に水風船を地面めがけて落下させていく。
「パンッ!」
「まだまだだな。次はオレな」
「パンッ!!」
「おー、スッゲー音!勝ったろオレ!」
「いやいや、オレの方が音デカかったよ」
なんて、言い合いをしていた次の瞬間
「ドンッ!!!」
もの凄い音が鳴り響いた。
「えっ何!いまの音!」
マンションの反対側から聞こえたのが分かった。
みんなで反対側の階段まで走った。
到着すると、すぐに踊り場から地面を見下ろした。
そこには、大きく広がった真っ赤な円ができていた。
そしてその中心には、長い黒髪が広がっていた。
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