【投稿者:しろくまっ子さん】
これは、築60年以上のアパートに住んでいた女性が体験した話です。
女優を目指していたAという女性は、バイト生活をしていたため裕福ではなく、家賃の安いアパートに住んでいました。
駅からもそう遠くなく、高齢で物静かな女性が大家ということや、部屋にお風呂もトイレもついている物件にしては安いという理由からこの家を選んだのです。
小さなアパートですが、他の住民の顔は見たことがありません。だけど、煩わしいご近所さんとの関係がなくてちょっと安心もしていたのです。
しかし、そのアパートに住み始めてからというもの、Aの身にちょっと奇妙なことが起こるようになりました。
誰かに見られているような気配や夜中に自分の名前を呼ばれているような気がして、何度も目が覚めるようになったのです。
しかも、夜中に『ガリ、ガリ』という鈍い音が壁から聞こえてきて、大きな音ではないものの時には一晩中聞こえるときもあり、耳栓をして就寝するようにしていたのです。
ぼろいアパートだからもしかしてねずみでもいるのかもしれないとあまり考えないようにしていたのですが、時には隣から男性の笑い声が聞こえてくることもあったのです。
そんな日々が続いていたある日、大家さんとたまたま顔を合わせ、「隣にどんな人が住んでるんですか?」とさりげなく聞いたのです。
すると、大家さんから返ってきた言葉にAは驚愕しました。なんと隣は空き家。誰も住んでいないと言うのです。
でも、確かに夜中になると隣で声がします。そのことを訴えても、別の部屋から聞こえるんじゃないの?と笑われる始末。
でも、毎日その声を聞いているAは分かっていました。その声と音は確実に隣から聞こえてくるということを。
隣に人が住んでいないなら……。Aは隣にはこの世のものではない存在が住み着いているのではないかという恐ろしい結論に達したのです。
それなら、部屋の中で感じた気配であったり、夜中に名前を呼ばれた気がして目覚めることも説明がつく。
自分が聞いていた声が幽霊の声だったのだと思うと、Aは怖くなってしまい、アパートを引っ越すことも考えましたが、家賃が高くてなかなか部屋が見つかりません。部屋探しの間もカリカリという音や声は続いていて、ノイローゼ気味になっていたのです。
実家に帰ろうかと思っている時、帰宅したAの目に飛び込んできたのは何台ものパトカーでした。物々しい雰囲気でしたが、帰宅しようとすると警察に止められてしまい、住民であることを説明すると部屋を見せて欲しい、隣人とはどんな関係だったのかということを聞かれたらしいのです。
しかし、隣は空室のはず。そう大家さんに聞いていると答えると、警察は首を傾げて「大家の息子が住んでいたのはご存じない?」と聞いてきたのです。そして「部屋にあなたにそっくりな女性の写真が大量に保管されていましたので確認を」と言われ、警察から写真を見せられたのです。
その写真は明らかにAのもの。部屋に入る瞬間やベランダで洗濯を干している時、ポストを確認している時など明らかに隠し撮りをされているものばかりだったのです。更に、隣の壁には複数の削った痕が確認されたのです。
それは、大きな丸を壁に描くように隣に貫通しない程度の削り痕削。その男は「Aにバレないようにトンネルを作って、寝込みを襲うつもりだった」と語っていたということで、夜中に聞いた音は壁を少しずつ削る音だったんです。しかも、穴はもう少しで円を囲めるようになっており、後日力をちょっと入れて押しただけで人が隣の部屋、つまりAの部屋に行ける大きさの穴が現れたと言います。
もう少し、警察の介入が遅かったらと思うとAは震えがとまらないと語っていました。なぜなら、警察が男の家にやってきた理由にあったのです。
実はこの男は、以前隣人宅に押し入って、殺人未遂を起こしていたのです。しかも、その手口が今回同様に壁を削って隣を隔てる壁を壊して進入していたらしく、暴行と殺人未遂で指名手配をされて逃げ回っていたのです。
大家は息子をかくまっていたものの、警察の手が母親に行かないわけはなく、あっけなく居場所を突き止められてしまったということ。
隣にはパソコンなども置いてあり、押収されたパソコンからは「確実に殺害する方法」「簡単に殺すには」「人体・バラバラにする方法」「死体・ばれない処分方法」など殺害を考えていた検索履歴が大量に出てきたらしく、警察が来なかった命はなかったかもしれません。
Aはこの件で幽霊よりも生きている人間のほうが怖いと悟ったようです。小さな音でも、それは事件に巻き込まれるサインなのかもしれません。