【投稿者:半田ふみさん】
今でも月に1回程度通りかかる、金網に囲まれた空き地があります。
住宅地の中に突然現れるその場所は、年々増え続ける家々やアスファルトに潰されることもなく、貴重な自然を閉じ込めているような見た目で、私は通りかかるたびに不思議な気持ちになります。
ところで、その空き地には真ん中にぽっかりとスペースが空いています。そのスペースの周りは鬱蒼と生い茂る苔や木に覆われ、心地の良い湿り気を帯びているというのに、真ん中のスペースにだけはほとんど何の植物も生えていません。乾いた地面がむき出しになっています。
昔、そこには小さな池があったはずです。
その頃は(真ん中のスペースは)地面がむき出した感じではなく小さな池になっていて、その周りは濃い緑に覆われて、さながら小さな湿地のようになっていたはずです。
ところが、そのことを母に言っても、母は「そうだったかな?」と首をひねります。かつてはよく私と一緒にそこを通りかかった母が、そこに池があったことをまるで覚えていないのです。
かつて近所に住んでいた数人の友達にも、同じ話をしたことがありますが、答えは母と同じ「そうだっけ?」でした。
それだけだったら「私の思い違いかな」と思うのですが、実はもうひとつ不思議なことがあります。
その空き地の近くには公民館のような建物があり、公衆トイレが併設されていました。
その公衆トイレの出入り口は、私が高校生だった時の通学路に面しており、私は一緒に通学していた友人・Mに待ってもらって、そのトイレを利用したことがありました。
先日、久しぶりにそのトイレの前を通り過ぎたら、トイレは無くなっていました。正確には、建物自体はあるのですが、出入り口のところが塗りこめられていたのです。
トイレの外観は濃いブラウンですが、出入り口があった部分はベージュで、明らかに「そこにあったものを塗りつぶした」ような見た目になっており、今時珍しいくらい雑だなぁ、と思いました。
後日、私は友人Mと会う機会がありました。
Mは高校生時代も今も、私にとっての一番の親友です。会えば、近況報告だけではなく、学生時代の思い出話に花を咲かせることも少なくありません。その流れで、ふと私は、あのトイレのことを思い出しました。
「そういえば、××の公民館のトイレ、今使えないみたいだね。なんか出入り口が潰されてたよ~」
私がそう言うと、Mは怪訝そうな顔をしました。
「あんな所にトイレなんて、あった?」
もう10年近くも昔の話とはいえ、毎日通っていた場所のことを忘れるものでしょうか? それも、一度私に待たされたことだってあったのに…。
池とトイレ。どちらも確かにあったのに、その痕跡すら残っているのに、なぜか誰も覚えていない。
私はその辺りを通りかかるたびに、不思議な気持ちになります。