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【奇妙な話】母の霊感は本物?

【投稿者:てんちさん】

わたしには霊感はありません。
しかし、母には霊感があります。
少なくとも、わたしは母の霊感を信じています。

以前、死体遺棄事件のあったマンションの内覧に行ったことがあります。
その時はまだ、わたし自身、そのマンションが殺人事件の現場だったことを知りませんでした。

しかし、家に帰るなり母が叫んだのです。
「あんた!どんな恐ろしいところに行ってきたの!心霊スポットでも行った?!」と。

母は特に怒ってはいませんでした。
しかし、あまりにも切迫した表情だったのを覚えています。

その後インターネットで物件を調べ、その日に内覧したとあるマンションで殺人事件があったことが発覚しました。

たしかに、その部屋で気持ち悪くなったのは事実です。
しかし、殺人事件が起きていたなんて、内覧に行ったわたしすら知りませんでした。
何も告げずに出かけたのに、母は真っ先に気付いたのです。

「怪談スポットにでも肝試しに行ったのかと思った。なにかが渦巻いていた。」と後に母は語りました。

同じようなことが昔にも一度ありました。

修学旅行で京都に行った時のことです。
旅館でちょっとした怪事件があったのですが、それは今回は割愛します。

最終日、観光地としても、同時に心霊スポットとしても有名な神社に参拝に行きました。

玉砂利をローファーで踏みしめながら鳥居をくぐり、参拝をしました。
おみくじを引いたり、友達と写真を撮ったり、充実した時間を過ごしました。

その日の夕方、バスで学校に帰ってきて解散になりました。
わたしの母は、学校まで車で迎えに来ていました。
疲れた身体で重い荷物を持って帰宅するのは辛いだろうという親心でした。

しかし、わたしがただいまと駆け寄るや否や母は渋い顔をして言いました。
「あんた、なにを連れてきたの?」

正直、なにを言われたのかわかりませんでした。
母によると、その時のわたしに何かが憑いているのが見えたそうです。
また、線香の強い香りが漂っていたそうです。
もちろん、自分で嗅いでも、友人に嗅いでもらっても、線香の香りは感じられませんでした。

なにも分からず置いてけぼりになっているわたしとは対称に、母はてきぱきとわたしと、一緒にいた妹にファ○リーズをかけ、車に乗せました。

そして、途中のファミレスで車を停めると、「家でご飯を食べるのは変更。今日はここで食べよう。お父さんには自分で食べて帰ってきてもらうよう連絡したわ。」と、予定を急遽変更してファミレスへ入りました。

正直に言うと、貧乏な家庭で育ったため、ファミレスに行くことはあまりありませんでした。
なので、家のご飯よりも、外食のステーキに大喜びしました。

しかし、なぜか食欲が湧きません。
わたしはかなり大食いで、同年代の女子に比べてもたくさん食べる方でした。
せっかくの外食なのに、珍しくいつもより食欲が湧きません。

そんなわたしの席に頼んだステーキが運ばれてきました。
その時、母が「ちょっと使うから、取ってもらっていい?」と言い、わたしの近くに置いてあった岩塩のボトルを指差しました。

「わたしもお肉に岩塩をかけるから、使い終わったら早く頂戴ね。」と先に母に岩塩のボトルを渡したら、母は自分のステーキにではなく、わたしのステーキに勢いよく岩塩を振りかけました。

「盛り塩というわけではないけれど、多少マシにはなるでしょう。珍しく食欲無いでしょ、今。」と淡々と言う母。
食欲が無いとは、一言も言っていませんでした。
むしろ、「ステーキまだかなぁ」と、普段通り振る舞っていました。

「なにを連れてきたの?」と最初に言われたのが、自分の親ながら少し恐怖だったのかもしれません。
しかし、食欲が無い事を言い当てられた時、我が母ながら不気味でゾッとしました。

しかし、母によって岩塩をふりかけられたステーキを食べ終わる頃には、不思議と食欲も戻り、デザートも頼み、気分も良くなっていました。
身体も少し軽くなったような感じがしました。
そして制服にはステーキの芳醇な匂いがつきました。

ファミレスから出て、車に乗るときでした。
ステーキの匂いがついてしまった制服に、先程使ったファブ○ーズを使おうとしました。
しかし、母は止めました。
「もう必要ないから大丈夫。」
母が言うには、線香の匂いと一緒に、一番危ないものは完全に取れたから大丈夫とのことでした。

母は「あのファミレスに置いてきちゃったけど、まあ大丈夫でしょう」とボソッと呟きました。

しかし、それでは終わりませんでした。
「まだ、何かを連れている。別の何かが付いてきている。なにか持ち帰ってきていない?」と母は怪訝な様子でしきりに言います。
もちろん、その時にはわかりませんでした。

家に帰ってから、玄関でそれはわかりました。
玉砂利です。

神社仏閣のものは、石ころひとつでも持ち出してはならない、という掟をご存知でしょうか。
石や植物などを神社仏閣から持ち帰るのは、神様のもの、仏様のものを盗む行いに準ずるとして、一般的に忌避されています。

母によると、玄関で靴を脱いで床に上がった途端、スルッと「落ちた」のを見たそうです。
そして、靴に何かが付いているのが見えたそうです。

母はすぐにわたしの靴を掴み、裏返しました。
普段から毎日履いていたわたしのローファーは、靴底がすり減ってベロベロになっていました。
そして、そのベロベロになった隙間に、最後に行った神社のものであろう、白い玉砂利がみっちりと詰まっていたのです。

正直、靴の重さに違和感は感じませんでした。
しかし、かなりの量の玉砂利が詰まっていました。

母はすぐに、玉砂利をローファーから取り除きました。
そして、「お父さんが帰ってくる前にこの玉砂利をどこかに撒いてきなさい。私有地以外に!」と必死の形相で言いました。

ちょうどいい、と愛犬の散歩がてら、その玉砂利は近くの河川敷に撒きました。

玉砂利を河川敷に撒いて帰宅したわたしを見た母は「これでやっと終わった。」と、心から安堵していました。

その後はなにも起きることはなく、ステーキの匂いが取れなくなった制服をクリーニングに出して、修学旅行は終わりました。

そして、「神社や寺院のものは、お金を出して買ったもの以外は一切なにも持ち帰るな」と強く説教を受けました。
今でも、神社仏閣に参拝する時は靴の裏に気をつけています。

もちろん、一連の騒動は母が勝手にデタラメやインチキを言っている、と言われてもおかしくありません。
しかし、少し怖い後日談があります。

帰りに寄ったファミレスが、その後、2ヶ月ほどで閉店しました。

そのファミレスは学校の近くにあり、別の高校も近所にあったため、学生で繁盛していました。
部活終わりの男子がよく利用していました。
わたしが入学する前からたくさんの学生に愛されてきたファミレスでした。
しかし、それがあっけなく閉店しました。

そして、そのファミレスをよく利用していた男子たちは揃って語っていました。
「あのファミレス、幽霊が出るようになってから客が遠のいていった」と。

直接聞いた話だと、誰もいないのにトイレをノックされるのは当たり前になってしまっていたそうです。

ドリンクバーのボタンを押していないのに、勝手にドリンクが出るのも数多く目撃されています。

突然熱湯が出てきて、手を火傷した先輩もいました。
数日間、手に包帯を巻いていました。
ひどい火傷でした。

また、トイレの鏡越しに女性を見たという男子もいました。
もちろん、男子トイレで、です。

そして、料理の匂いに紛れて、線香の匂いがする、という体験談が囁かれていました。

内容に心当たりがありました。
いや、心当たりしかありませんでした。

しかし、わたし自身そのファミレスに行ったのはその日が最初で最後になってしまったので、真偽はわかりません。

その後その建物には2回ほど別の飲食店が入りました。
しかし、どの店も長続きせず、今は建物ごと壊されてガソリンスタンドになっています。

「ファミレスに置いてきちゃったけど、まあ大丈夫でしょう」と言っていた母も、「やば……」と言って焦っていました。
たぶん、あなたのせいです。

しかし、あのまま、まっすぐ家に帰っていたらどうなっていたのか。
その後のファミレスでの噂を聞くたびに、他人事では無い恐怖を感じます。

浄霊と除霊は、違うそうです。
浄霊は、霊を完全に成仏、あるいはそれに準じた対処をします。

しかし、除霊は、その名の通り、「取り除く」だけだそうです。
取り除かれた霊は、成仏するわけではないので、その場に留まります。
そして、ふたたび別の何かに取り憑くことがあるそうです。

あの日、母によって除霊はおざなりにも成功したのかもしれません。
しかし、除霊した結果、取り除かれた「何か」は、あのファミレスに居続けることになってしまったのではないでしょうか。

今となっては確かめようはありません。
しかし、わたしが母の霊感を信じるに至った興味深い体験でした。