【投稿者:旅行好きのCさん】
これは、魚釣りが趣味という男性が経験した話です。
その人はよく離島に行っては夜釣りなどを楽しんでいたのですが、その日も人口が数人ほどという小さな島で魚を釣っていました。
その日は平日ということもあり他に釣り人は一組ほどしかおらずゆっくりと釣りができると思っていたらしいのです。
昼間は島の人たちに声をかけられて楽しく釣りをしていたものの、夜になると釣り人は男だけになりました。
のんびりと釣りをしていると、そこに一人の男性がすっと近づいてきました。
昼間は見かけなかった、若い男性はキャップを深々とかぶり、男の後ろに黙って立っていたため、気まずくなった男は「こんばんは」と声をかけたものの、若い男は無言。
「釣りに来たのかい?」と聞いても無言で、ちょっと気持ち悪いなと思ったものの、自分は島の部外者なんだから、きっとこの若い男の方が俺のことを不審者みたいに思ってるんだろうな。そう思った男は「釣りをしに来てるんですよ。ここはいいとこですね」などと声をかけましたがやはり返答はありません。
すると、男はその若い男性の身なりがボロボロであることに気がついたんです。しかし、漁師などは、上から羽織ったりするため古くなったシャツを着てるのも珍しくありません。
でも、爪のなかまで汚れて数日お風呂に入っていないのではないかと思えるような風貌に何を聞いても答えない姿を見て
(もしかして、、この世のものではないのでは……?)と思ったのだそうです。
すこし警戒し始めた男は、夜食用に持ってきていたパンを取り出しました。もしもこの世のものではないのなら、食べ物を食べるなんてことできないのではないかと思ったからです。
「パン、たくさん買ったからたべるか?」と聞くと、差し出すや否や奪い取るようにパンを受け取ったのです。
それでも男は無言で無表情。パンを食べるわけでもないのです。
「暖かいお茶でものむかい?」と宿泊先で水筒に入れてもらった温かいお茶をコップに注ぐと、なんとそれはグビグビ飲み干したのです。
なんだか不憫に思った男は水筒ごと男に渡しました。すると、男は無言で受け取り、逃げるように去っていったのです。
やはりお化けじゃなかったのか……。変わった人もいるんもんだなと思いながらもその後も釣りを続け、朝食の時間に宿に帰り、宿の人に夜中に会った若い男性について聞いてみたのです。
しかし、宿の人は島の人をみんな知っているし、もしも部外者なら島に宿はここしかないから知ってるはず。なのに宿の人は見覚えがないと首をかしげたのです。
若い男性なんて数えるほどしかいないから、知らないはずがないと……。それじゃ、あの男はなんだったんだ。生気のないあの表情は、やはりこの世のものではなかったのか。
ゾッとした男は、その日はもう釣りをせず、そそくさと帰宅しました。もしもとりつかれてしまったらどうしよう。お祓いに行くべきなのかと悩んでいるとその男をもっとゾッとさせる出来事が起きたのです。
それは、テレビに映ったニュース映像です。ある事件を起こして逃走していた男が捕まったという報道だったのですが、その犯人の顔はあの離島で出会った男そのものだったのです。
逮捕時の所持品には男性が渡した水筒と僅かな小銭だけだったとのこと。
なんとあの男は事件を起こして離島に逃げ、しげみのなかに身を隠していたらしいのです。
自分が会ったのは幽霊じゃなかったと思ったのものの、ホッとなんて出来るわけがありません。
後日、捕まった男のことが気になって調べた男性は、更にゾッとする事実をしることとなります。
それは、男が取り調べで述べていた言葉で、「離島に逃げ込んだとき、釣り人を見て海に突き落として金や衣類を奪おうと思った。だけど、食べ物を分けてくれたのでできなかった」と……。
あのとき、気持ち悪いなと思って無視をしてたら暗い海に突き落とされていたんだ……。
人への善意が自分の命を救ってくれたのだとホッとしつつ、一人で夜釣りをするのはもうやめようと、その男は固く決意したんだそうです。