【投稿者:yumiさん】
小さい頃仲が良かった近所のA子は、小さなクマのぬいぐるみがお気に入りでした。
外で遊ぶ時にもいつも持ち歩いていて、いつでも一緒。
でも、ぬいぐるみがいつも一緒というのは、他の子にはからかわれてしまう材料を与えること。当然、他の子たちにはからかわれていました。
ある日、公園でA子と遊んでいると男の子達がからかいに来ました。
「赤ちゃんみたいw」と言われたA子はムッとして何を思ったのかぬいぐるみの頭をポカポカと殴り始めたのです。
「あんたたちも同じ目にあいたくなかったら、どっかいけ!」と叫んだA子の勢いに驚いた男の子たちは、あっさりと去っていきました。
正直、ここまで怒った姿は見たことがありませんが、いつもからかわれていて、限界だったのだろうなと、そこまで不思議ではありませんでした。
次の日はA子の家で遊ぶ約束をしていたので、A子宅に行きましたが誰も出てきません。
時間を間違えたのかなと思い一度家に帰ると、母から「A子ちゃん、ベッドから落ちて頭を打ったから病院に行ったんだって」と聞かされました。
幸い大事には至らなかったようなので、一週間ほどでまた一緒に遊ぶようになったのです。
ある日、ぬいぐるみを抱えたA子と一緒にお菓子を買いに行くと、店に別の友達がいました。
でも、その友達はA子のことをよく思っていなかったので、「ねぇ。なんでいつもぬいぐるみ持ってるの?」とからかうように聞いてきました。
「みんなおかしいって言ってるよ」「そんなんだから嫌われるんだよ」と口々に言われているA子はいつも通りムスッとしたまま。
私は止めつつも、なんでここまでぬいぐるみを持ち歩くことにこだわるんだろと苛立ちさえも感じていました。
するとA子は手にしていたぬいぐるみの手の部分をねじり始め、ぬいつけている腕の部分を引きちぎろうとし始めたのです。
「なにしてんの?」「やだやだ、気持ち悪!」とからかった子達が騒ぎ始めると、A子は「あんたたちの腕も引きちぎろうか?」と言い出したのです。
ぬいぐるみの腕は半分くらい縫い目がとれて、中の綿が出ている状態。それを見た友達は叫び声をあげて逃げていきました。
「大事なぬいぐるみにそんなことしちゃだめじゃん」と言うと、A子は「でも、みんなびびって逃げていくじゃんw」と得意気。
なんだかぬいぐるみがかわいそうになり、A子のことも不気味に感じ、私も距離をおこうと密かに思ってしまいました。
しかし数日後、なんと今度は一人で遊んでいたA子が公園の遊具から落ちて、腕を骨折したと知らされたのです。
A子が怪我をしているときはからかう子も少なかったのですが、怪我から回復するとまたからかわれるようになったのです。
公園でお絵描きをしていると、またしても男の子たちが近づいてきて「バブバブ~わたち、赤ちゃんだからくまたんがいないとさみちぃぃのぉ」と、からかってきたのです。
私は「無視してたらいいよ」と言いましたが、男子たちのからかいは止まりません。
すると、「うるさい!」と怒鳴りながら立ち上がり、近くにあった鉛筆でぬいぐるみの足を何度も突き刺し始めたのです。
「やめなよ!大事なぬいぐるみでしょ!」と止めたのですが、A子は止まりません。
「これはあんたたちよ!次はあんたの足をボロボロにしてやるからな!」と叫ぶA子に男子は「なんだこいつ!やれるもんならやれよ!」と言いながらも、その場から離れていきました。
私同様、A子に恐怖を感じていたのでしょう。
私も怖くなって、逃げるように家に帰っていきました。
でも、この時先に帰ってしまったことを後で後悔してしまうことになるのです。
一人になったA子は、公園の奥の方まで一人で行ったようなのです。
そして、蜂の大群に襲われてしまい足を大量に刺されてしまい、病院に運ばれたのだと、次の日に聞かされたからです。
幸い、命に別状はなく、すぐに回復したのですが、私は公園の奥は野良犬がいるとかよくない話を聞いていたので、一緒にいたら、絶対にいかなかったのになと自分を責めてしまったのです。
しかし、からかわれて怒るA子に対して恐怖を感じているのも事実。
私は、回復したA子に思いきって普段はぬいぐるみを持ち歩かない方がいいよとアドバイスをすることにしました。
「家で大切にするだけでいいじゃん。持ち歩いてからかわれるのは嫌でしょ?」と諭したのですが、A子は「私が一緒にいたいからいいじゃん!」と頑な。
私は「このままだったら私もからかわれるから、一緒にいたくないよ。みんなA子から離れてもいいの?」とはっきり言うと、A子は真っ赤な顔をして怒り、「わかったよ!」と言い、ある場所に向かったのです。
それは、小学校の焼却炉。当時はどこにでもあり、火がついていることが多かったのです。
A子は焼却炉のドアを開けると、迷いなくぬいぐるもを燃えあがる炎のなかに投げ込んでしまいました。
「なにしてるの?!」と、私は慌ててぬいぐるみを取ろうとしましたが、もう遅い。あっという間にぬいぐるみは火に包まれてしまったのです。
「私にひどいこと言ったんだから、あんたもこのくまと同じ目にあわせてやる!!」とA子は怒鳴り、燃えてなくなるクマを笑って見ていました。
狂気じみたA子の行動に、私は恐怖だったのですが、どこかでぬいぐるみがなくなったことでもうからかわれることがなくなるんじゃないかと期待もしていたのです。
しかし次の日、私は母に衝撃的なことを聞かされたのです。
「A子ちゃん、火事でなくなったんだって」と。
それは、地元のニュースでも取り上げられて、A子が一人で留守番をしている時、漏電により発火で火事になり、A子が焼死したというのです。
私はショックで一杯でした。
ようやくぬいぐるみからも離れられて、普通の生活が送られると思っていたのにと。
しかし、そこでハッとしたのです。
昨日、ぬいぐるみを焼いて処分したA子が焼死。
その前は足を蜂に刺されていた。その直前に、からかわれて怒ったA子がぬいぐるみの足を鉛筆で刺していた。
その前は腕を骨折、ぬいぐるみの腕をちぎろうとした後で頭を打ったのは確か……
A子がぬいぐるみにしたことが、すべてA子に返ってきている。
A子が亡くなったのは私が怒らせて、ぬいぐるみを処分させてしまったからかもしれない。そう思うと、怖くて泣いてしまいました。
大人は、友人を亡くしたショックで泣いていると思っていたようですが、間接的にA子の死に関わっているのではないかと思い、怖くてたまらなかったのです。
実際にぬいぐるみが原因だったのかはわかりませんが、A子の死以来、私はぬいぐるみを持つことができなくなりました。
だって、捨てたときに私もこの世から捨てられてしまうかも知れないですから。
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