【投稿者:よりのつさん】
新車が欲しいと夢見ていた私。
やっとその願いも叶い、ドライブへと繰り出します。
「新車の乗り心地って最高だな。どんどん乗って、慣らしてみよう」
と、ますますハンドルを持つ手に力が入ります。
お気に入りの音楽を流しながら、バイパスを走る私。
しかし、バイパスの交差点に差し掛かったとき、車のスピーカーから
「ウウウウウウッ」
という不気味な音が聞こえてきました。
「ん?新車なのに、スピーカーからノイズ?壊れてるのかな」
と思ったのですが、その音はしだいに人のうめき声に聞こえてきます。
「ゥゥッウウーーゥウウウッーーー」
さきほどよりもさらに苦しそうなうめき声を聞いていると、私まで胸から上が締め付けられているように苦しくなってきました。
「なんだか息苦しくなってきちゃった。。」私はスーパーの駐車場に車を停めて、外に出ました。
10分ほど立っているとだいぶ楽になったので運転席に戻り、また車を走らせます。
バイパスを抜けると、辺りは田園風景に切り替わりました。
「こんな場所なら、星もきれいに見えそうだな」と、車のシートを少し斜めに倒して夜空を眺めていると、
ズシンッ
と、まるで後部座席に誰かが乗り込んだ時のように、車体がわずかに揺れました。
恐る恐るバックミラーで後ろを見ると……左斜め後ろに黒い人の影が見えます。
大柄で、中年男性のような影が。
頭にはヘルメットを被り、作業着のような服を着ているのがわかります。
身動き一つせず、ジッと前を向いたまま座っているのです。
「!? ど、どうしよう。幽霊が車の中に乗っている??」
その時です。
バチンッ!!
エンジンが勝手に切れて、車のヘッドライトも消えてしまいました。
ライトが消えてしまうと、辺りは真っ暗になり、静けさだけが広がります。
車も通っていないので、助けを求めようとしても難しく、スマホも家に置き忘れていることに気づき、恐怖で震えが止まりません。
さらに、座ったままの状態で私はいつの間にか金縛り状態になってしまい、身動きも、声を出すことすらできない状態に気づきました。
そんな私に向かって、黒い男は顔をゆっくりとこちらに向けてきて、ニヤッと笑うんです。
そして、右手で私の左肩をガシッと掴んできたかと思うと、ギュッと掴んでくるんです。
怖くてしかたがなく、私は気絶寸前の状態。
ゆっくりと顔を近づけてきて、耳元で「ゥウウウッゥウウウッッツ」と不気味な呻き声を出してきます。
その呻き声を聞いていると、胸や首がじわじわと締め付けられるように苦しくなってくるのです。
もっと恐ろしいのが、黒い男の影から焦げるような臭いがじわじわと漂ってくるところ。
ガソリンで車が焼けているような臭いが鼻をつきます。
金縛りになっていて、身動きがとれない私はもうパニック!
「このままだと焼けてしまう……」と恐怖に包まれ、いつの間にか目から涙が溢れていました。
目だけはかろうじて動くことに気づいた私は、男の顔に目線をやると、白い歯を見せながらニヤッと笑っています。
全身からガソリン臭い白い煙を出しながら…
「うっ、く、臭い!!」
私はとっさに、学生時代の頃に覚えさせられたお経を、うる覚えの状態ながらも思い出しながら心の中で必死に無我夢中で唱えました。
お経を唱えてつづけて数分が経過した頃でしょうか、車体がガタガタと激しく揺れたかと思うと、黒い男の影がスッと消えて、金縛りがフッと解けました。
その時、私は気づきました。
そういえば、あのうめき声が聞こえてきたバイバスでは、数ヶ月前、深夜に玉突き事故がありダンプとトラックに挟まれた乗用車に乗っていた男性が車ごと焼けて亡くなった事故のことを。
霊感のある私に、その男性が何かを訴えたくて、憑いてきてしまったのでしょうか。
お経を覚えていてよかったと心から思った、恐怖のドライブとなってしまいました。