【投稿者:hirakoさん】
とあるマンションの一室に引越したのですが、住んでみて初めて、そこが事故物件ということを知りました。
不動産屋さんは心理的瑕疵がある物件だなんて一言も言っていなかったので、「騙された!」という悔しい気持ちでいっぱいでした。
どうして事故物件だと分かったのかと言うと、その部屋で怪奇現象が起きたからです。
引越し初日の夜、部屋の片づけで疲れた体を癒そうと、お風呂に入りました。
私は習慣として、お風呂から上がる前に必ず排水溝のゴミを取るようにしているのですが、その排水溝に黒くて長い髪の毛がびっしりと詰まっていたのです。
当時の私は茶髪のショートカットですし、不動産屋さんからは清掃は済んでいると言われていたので、本来ならば髪の毛がそこにあるはずありません。
その時は、「清掃したって言ってたけど、ここだけ掃除し忘れたのかな」と思って、気にしないことにしました。
しかし、腰元までありそうなくらい長い髪の毛は、その日以降毎日、排水溝に隙間なくびっしりと詰まっていました。
それだけではありません。
部屋のどこにいても誰かにじっと見つめられているような視線を感じたり、寝ている時にベッドの周りを何かが這い回るような音が聞こえることもありました。
ラップ音も凄くて、引越して1週間程で、私は精神的に参ってしまったのです。
部屋にいると落ち着かないし、寝ようとしても気が散ってよく眠れないことから、すっかりやつれてしまいました。
「もうここに住むのは嫌だ」と思った私は、すぐに新しい引越し先を探し始めました。
職場の人や友達に「どこか良い物件ない?」と聞き回っていると、話しを聞きつけたらしい友達のA子が連絡をしてきました。
A子はオカルト好きで、話しの流れで私の住んでいる部屋で怪奇現象が起こることを知ると、しきりに「その部屋を引き払う前に泊まってみたい!」と言ってきたのです。
「やめた方がいいよ」と何度断っても「1日だけでいいからお願い!」と頼み込んでくるので、断り切れずA子を泊めることになりました。
A子が私の家に来たのは、夜21時頃です。
晩御飯とお風呂は自宅で済ませてきたと言うので、リビングでちょっとお喋りして、適当な時間に眠ることにしました。
誰かをその部屋に招いたのはA子が初めてで、「私以外の人がいれば怪奇現象は起こらないかも」なんて漠然と思っていたのですが、誰がいようとおかまいなしに起こりました。
A子を部屋に招き入れてリビングに行くと、突然、今まで聞いたことがないくらい大きなラップ音が鳴り響いたのです。
ビシィッ!バキンッ!という甲高い音を聞いて、A子は怖がるどころか「本当に事故物件じゃん!」と嬉しそうにしていました。
幽霊はそんなA子の様子に怒ったのか、今度は部屋の照明やテレビが勝手に消えたり点いたりし始めました。
ますますテンションが上がるA子に比例するように怪奇現象も激しくなっていき、恐ろしくなった私は何とかA子を落ち着かせ、どこにいるのかも分からない幽霊に向かって「もうすぐこの部屋を出ていくので!怒らないでください、ごめんなさい!」と必死に謝りました。
すると、幽霊は分かってくれたのか、怪奇現象はピタリと止んだのです。
残念そうにしているA子を宥めて、時間も遅いこともあり、「もう寝よう」と言って、A子を寝室に案内しました。
部屋の電気を消して、A子と他愛もない話しをしていたのですが、いつの間にか寝てしまったようです。
ふと、いつも聞こえる這いずり回る音とは違った音が聞こえた気がして、目を覚ましました。
私は自分のベッドで、A子は床に敷いた布団で寝ていたのですが、床を見てもA子の姿がありません。
トイレに行ったのかと思っていると、ズッ…ズッ…という重たいものを引きずるような音が聞こえたのです。
音のする方を見ると、薄暗闇の中、何かが床を這っているのが分かりました。
「あれがいつも聞こえる音の正体か」と驚きましたが、何かおかしいのです。
よく見ると、腹ばいになり両手だけで床を移動しているA子がいました。
「A子!?何やってるの?」
慌てて部屋の照明を点けてA子に駆け寄ると、A子は俯いて「ない、ないの…」と呟くのです。
「ないって、何が…?」
再度問いかけると、A子はゆっくりと顔を上げ、「私の目がない!」と叫びました。
A子の顔にはあるはずの2つの目が存在しておらず、本来なら目があるはずの場所には、ぽっかりと黒い穴が開いていました。
思わず後ずさると、A子は「ない、ない、どこ、私の目はどこ、どうして見えないの、ねぇ、ねぇ!」と悲痛な声で叫びながら私に掴みかかってきました。
驚いて避けると、A子は体制を崩して床に倒れ込み、気絶したのかそのまま動かなくなってしまったのです。
頭を打っていたら大変だと思って、すぐに救急車を呼びました。
騒がしくしていたからか隣人さんが出てきて、何があったのか聞かれたのですが、「友達が幽霊に取り憑かれて倒れた」なんて信じてもらえないと思って誤魔化そうとしました。
すると隣人さんは「…もしかして、出た?」と言ってきたのです。
真剣な顔で言うので冗談ではないと思い、「はい…、何か知ってるんですか?」と聞くと、事情を話してくれました。
隣人さんの話しによると、私の住んでいる部屋では何年か前に殺人事件があったようなのです。
殺されたのはその部屋の住人の女性で、両目と両足を潰された状態で亡くなっていたと教えてくれました。
「あなたの部屋、入ってもすぐ引越していくから、何かあるんだろうなって思ってたんです」と言われ、「あの部屋に出たのは亡くなった住人の幽霊だったのか…」と恐怖のあまりブワッと全身に鳥肌が立ちました。
A子は1日入院しましたが、検査の結果、異状はないということですぐ退院しました。
退院後にA子と会ったのですが、A子は幽霊に取り憑かれたことを覚えていたのです。
「いつの間にか眠っていて、ふと起きたら両目が見えなくなっているし足も膝から下が動かなかった。何故か無性に目を探さないといけないという気持ちでいっぱいだった」と、あの時のことを話してくれました。
A子は幽霊に取り憑かれて以降、オカルトに対して恐怖心が芽生えたのか、そういった話しは一切しなくなりました。
幽霊が私ではなくA子に取り憑いたのは、きっとA子が幽霊を面白がっていたからでしょう。
A子自身もそれが分かっているようで、終始「怪奇現象を面白がったりしなければ良かった…」と、後悔していました。
私は、住人が何故、あの部屋で惨たらしい殺され方をしたのか調べるのも怖くて、すぐに引越しました。
不動産屋さんが事故物件であることを教えてくれなかったのは、事件が起きたのは数年前のことで、私が住むまでに何人も住んだ実績があるからかもしれません。
世の中にはとんでもなく恐ろしい物件があるのだと思った体験でした。