【投稿者:サルスさん】
就職を機会に実家を出て一人暮らしをすることになったのですが、薄給の会社にしか就職できなかった為家賃に回せる金というのは限られていました。
そのため、引っ越し先のアパートはボロボロで築50年近く経っていて、どこか物悲しい雰囲気も醸し出していました。
このアパートでは男性が孤独死していたいという、いわゆるいわくつきの物件であったため、家賃は格安でした。俺は幽霊なんて信じてなかったため、家賃が安いにこしたことはないと大喜びで引越しを決めました。
しかし、住み始めて数日後からおかしなことが起こるようになったのです。
ある日、ポストに手紙が届いていたのです。それは差出人も宛先も書いてなく、切手なども貼ってはないことからこのポストに直接投函されたことがわかります。
大家さんからの手紙かなと思い、封を開けると真っ白で何も書かれコピー用紙が出てきたのです。
変だなとは思ったものの、あまり気にすることなくその手紙は捨ててしまいましたが、それからしばらくしてまた宛先などが書いていない手紙が投函されており、またコピー用紙か?と思いきや今度は『約束覚えてる?』と一言だけ書かれていたのです。
さすがに気持ち悪いなと思ったため、管理会社に連絡をすると、「いたずらですかねぇ」と言いながら、あまり対応はしてくれませんでした。ボロ屋で家賃も安かった為仕方のないこととは言え、カメラなどの対応くらいはしてくれないかなとちょっと不満に思いつつ、様子を見ることにしたのです。
すると、また一ヵ月後に同じように手紙が入っていました。
手紙には『約束、したよね』と書かれており、身に覚えのないその文字にぞっとしつつこの手紙が先月も19日に届いていたことに気がついてしまったのです。最初の手紙はいつ届いたか思い出せないものの、先月は手紙が届いてすぐに管理会社に電話をしたため、電話の発信記録に残っていたので確かです。偶然なのかそれとも狙っているのか……。
そして翌月の19日。帰宅してポストを覗くと、やっぱり手紙があったのです。恐る恐る封を開けると、そこには『私は覚えてるよ』の文字が……。そして封筒のなかには手紙とは別に星型のピアスが入っていたのです。女性もののピアスに身に覚えなどはなく、ちょっと古びた感じのピアスにぞっとしてまたしても管理会社に電話をかけると、防犯カメラを設置してくれると約束してくれたのです。しかし、防犯カメラがつくことなく、またしても19日に手紙が……。
今度は『私との約束、覚えてるよね。あなたは私のこと裏切ったりしないよね。もしも裏切られたら私……」と書かれていたのです。裏切るもなにも、身に覚えがないことに恐怖は募るばかり。最後まで書かれていない文章にも恐怖しかありません。すでに引っ越すことも考えながらも、お金がないので簡単にはいかないし、頼れる友達もいない。管理会社は早急に対応すると言いながらも対応してくれる気配はない。
そのため、通販で小さなカメラを購入して手紙の主にはばれない様にこっそりとカメラをしかけて手紙が投函されることを待つことにしたのです。
そして19日。朝からポストに手紙はなし。カメラを設置して仕事に行き、帰宅するとやはり手紙が入れられていたのです。急いでカメラを確認したのですが、そこにはカメラを設置してる自分の姿が映った後、数分後に映像が乱れて砂嵐状態で何にも映っていないのです。安いカメラはダメか愕然としながら、とりあえず手紙を確認したのですが、なんとそこには『裏切ったな!!私との約束を!!裏切るなって言ったのに!お前だけは許さない!!』と書いてあり、「うわぁぁ!!」と思わず悲鳴をあげてその手紙を投げ捨ててしまったのです。
警察に相談しても「引っ越したばかりなら間違って投函されているのかもしれませんね」とあまり相手にしてくれません。警察に相談したことを伝えると、管理会社は慌ててカメラを設置してくれたのです。これで犯人が分かるかもしれないと思い、翌月の19日を心待ちにしているとまたしても手紙が投函してありました。『裏切り者の!!お前は人間のクズだ!私を裏切ったこと後悔させてやる!!』と殴り書きされており、早速管理会社に電話をして、カメラの映像を確認してもらうように頼んだのです。
営業時間外でしたがすぐに対応して貰えて、映像を確認してもらったのですが、なんとそこにはポストに投函した人物は映っていなかったというのです。何度確認しても映像はない。誰も入れていないならこの手紙はどうやってポストに入ったのだろうか。管理会社の人からは、こちらが嘘をついているのではないかというような目を向けられてしまう羽目になってしまったのです。
でも、確かに手紙は19日に必ず投函されている。誰も入れた形跡がないということはこの世のものではない何かってこと以外に考えられません。幽霊などはいないと思っていたのに、これはさすがに何かあると思った俺は、引越し先を探そうとしたのですがどこも家賃が高くて手が出ません。ネットで見た知識で盛り塩をしたり、お経を覚えるくらいにしか対応する手段がなかったのです。
そして迎えた19日。仕事から帰るとまたしても手紙が……。そこには『今度は約束破らないでね』と書いてあったのです。約束って何だよ!そう思いながら手紙を捨てたら呪われてしまうのではないかと思い、丁寧にまた折りたたむと、なんと裏に小さな文字で手紙の続きが書かれてあったのです。裏に書かれていた手紙の内容を見て、ぞっとしました。なんとそこには『今日会いに行くから待っててね。約束だよ』と書かれていたのです!
今日っていつだ?!何しにくるんだ?幽霊がどうやってくるんだ?!
慌てた俺はここにいたら危険だと思い、着の身着のまま家を飛び出したところに見知らぬ女性がにやっと笑って立っているではありませんか!
「う、うわぁー!だ、だれだぁぁ!!」と叫んで逃げ出そうとするものの、女性は逃がしてくれません。生気の抜けた表情で笑うその姿は何かをたくらんでいる顔にしか見えず、俺は初めて見る幽霊の姿に腰を抜かしそうになりました。
女性はニヤニヤしながら立ちつくし「約束、守ってくれたのね」と俺に抱きつくそぶりを見せた為、このままでは殺されてしまうと思い、無我夢中で逃げました。だけど、女の幽霊は「待って!」と弱々しく追いかけてこようとするのです。幽霊から逃げられるわけがないと死を覚悟しながらも逃げ切ろうと後ろも振り返らずに走り続けたため、俺は車道に飛び出してしまい車と衝突してしまい、周囲が騒然とする中で、俺はこのまま死んでしまうのかと思いながら、そのまま意識を失ってしまったのです。
しかし、俺は病院で目が覚めました。幸い頭を打って気を失っていただけでかすり傷や打撲で済んだとか。目が覚めた俺に看護師さんが「奥さんが付き添ってくれてましたよ」と声をかけてきたのです。
奥さん?俺は自慢じゃないけど彼女すらいない。奥さんなんているはずもない。なんだか嫌な予感がしました。そういえばあの幽霊は?そんなことを考えていると、看護師さんに連れられて、あの幽霊が入ってきたのです。
「目が覚めてよかったわ。あなた」と笑うその女に俺は「ぎゃーー!」と悲鳴をあげ「そいつは奥さんなんかじゃない!幽霊だ!!」と逃げ出そうとするのを看護師さんにとめられ、先生たちも駆けつける大騒ぎに。そのすきにあの女はいなくなっていたのです。幽霊なのに俺以外にも見えるなんてと驚愕しつつ、俺は先生たちに全てを話しました。そして、結婚していないことなども伝えたのです。病院が警察に通報したのですが、女は幽霊なので警察の出番じゃない。そう思っていたものの、駆けつけた警察が病院内の防犯カメラをチェックすると、なんと映像にはその女がバッチリ映っており、指紋なども採取されたのです。
そして、女の居場所がわかり逮捕。なんと女は幽霊なんかではなく生きていたのです。女性と一緒に住んでいた両親によると、その女性は結婚詐欺にあって以来精神的にやんでしまい閉じこもっていたようなのです。ですが、毎月必ず19日には外に出ていたとのこと。その19日というのは、彼女が結婚詐欺の男と初めてデートをした付き合った記念の日。毎月、一ヶ月記念日、二ヶ月記念日と19日に祝っていたらしいのです。
その(結婚詐欺の)男はこの家に住んでいたらしいのですが、夜逃げ同然に引越しをされてからは女は精神を病み、俺とその結婚詐欺師の彼と区別がつかなくなっていたようなのです。事故に遭って記憶をなくしていた俺の妻のふりをしていた女の正体に驚愕し、俺は、その女が逮捕されたと聞いても、やはり気味が悪かったためそのアパートを出て行きました。あの時管理会社が設置したカメラに女性が映っていなかったのは、設置されたカメラが4秒に一枚写真を撮影するという方式のものだったらしく俺のポストにだけ向けてあったため、たまたま撮影されていない瞬間に投函されていたため、映っていなかったらしいのです。
結果的に幽霊ではなかったものの、俺をニヤニヤして見つめるあの執念の顔は生気が抜けた幽霊そのもの。もしも彼女が亡くなったらきっと魂だけが残り、この場所で詐欺師の男を追いかけ続けるのではないでしょうか。病院で意識がなかった俺にあの女がずっと付き添っていたのかと思うと、今でもぞっとしてしまい、いつか化けて出てくるのではないかと怖くてたまりません。