【投稿者:半田ふみさん】
中学生の頃、私は家族で滝を見に行きました。
当時は滝なんて興味がありませんでしたが、滝に至るまでの道がなかなかアスレチックじみていて、予想外にとても楽しかったのを覚えています。
手すり代わりのロープを恐る恐るつたい、だんだんと大きくなる水の音を聞きながら道ならぬ道を歩いていくと、パッと視界が開き、大きな滝が現れました。
滝つぼに落ちる水の勢いは想像の何倍も激しく、力強く、そのあたり一帯に細かな水しぶきが充満しているようでした。空気はそれまで感じたことがないほど清々しかったです。
そこに至るまでの道が、道ならぬ道とはいえ多少手を加えられていることからも分かる通り、その滝はどうやら有名な滝のようでした。滝の周りには、私たち家族以外にも、観光客の姿がちらほらと見えました。
私は持参していたデジカメを使って、滝の写真を何枚か撮りました。滝にカメラを向けるとどうしても観光客の姿も一緒に写り込んでしまいましたが、私は気にせず撮りました。
満足して帰宅したあと、私は撮った写真をパソコンで確認していきました。やはり水蒸気が多かったのでしょう、滝を撮った写真のすべてに、光の玉のようなものがいくつも映り込んでいました。
あんまり見栄えがいい写真はないな…と少々がっかりしながら確認を進めていくと…私の目は、一枚の写真の隅に吸い寄せられました。
そこには一人の中年女性が映っていました。その女性を見ているうちに、私は二の腕が泡立っていくのを感じました。
その女性は、体が向こうを、顔がこちらを向いていたのです。振り返っているのではありません、顔と体が完全に真逆の方向を向いていたのです。
私の勘違いではないかと何度も見直しましたが、やはり服からしても、靴の向きからしても、顔と体がバラバラの方向を向いているのは間違いありませんでした。
顔がぼやけているのは、単に当時のカメラの性能や、私の写真の腕の問題だったのでしょう。しかし私には、その顔がはっきりしないところも恐ろしく思えました。
私はパソコンとカメラの接続を切り、別の部屋にいた母にデジカメで写真を見せました。しかし、デジカメの小さな画面ではよく見えず、母も「たまたまそう見えるだけでしょう」と笑うばかりでした。
やっぱりパソコンの大きな画面で見せなきゃだめだ、と思い、自分の部屋に戻って再びカメラをパソコンに接続すると…画面には、カメラに写真データが入っていないことを示す文字が。
えっ、と思い、接続を切ってデジカメを起動しましたが…そこに入っていたはずのあの写真は、一緒に撮った他のすべての写真ごと、きれいさっぱり消えていました。