本記事はYoutubeにて朗読コンテンツにもなっております。
お好きな方でご視聴くださいませ。
【投稿者:ベルナーレさん】
私は今でこそ首都圏の郊外のある都市に住んでいますが、高校生の頃までは故郷というか田舎である福島県のいわき市内に住んでいました。
そこは温泉でも有名な地域で、筆者の住まいはその街外れの里山に近いのどかなところでした。
そこには金刀比羅神社(ことひらじんじゃ)という社があって、何でも四国の琴平(ことひら)から移された神社だそうです。
そのお社はお寺さん寄りの山頂部にあって、石畳の参道と急な石段を登った所にあります。
そして、我ら子供の頃はよくお寺や神社で遊んだものでした。
そんな事で遊び場が神社仏閣でもあったのです。
よく言われるのが、お寺と神社はどちらが怖いか、ですが、私から言わせれば圧倒的に神社です。
お寺はまれに火の玉(のようなもの)を見る程度で、案外、怖さとか恐ろしさは感じません。
ですが、神社というのは元より竹や杉の木うっそうとしていて、それが参道から階段を経て本殿まで続いているのです。
特に本殿の周辺は巨木に覆われているため、夜など数人で歩いていても、大木のせいもあって漆黒の暗闇で、ゾクゾクするほどの恐怖を感じるところなのです。
そんな金刀比羅神社に、私たちは中学生の頃までは、よく「肝試し」といって、付近の町民の子供たちを強引に誘って、夜中の12時過ぎに一人ずつ、懐中電灯を持って参道から階段を登って本殿に向かって、社の中に納めてある御札を頂戴してくる、というような遊びをしていました。
単なる子供同士の遊びでしたが、真っ暗闇の中を懐中電灯一つで肝試しを行なっていましたので、本当に神社の怖さというか、恐ろしさを目の当たりにしたものでした。
ところが、そんな時期に大事件が発生したのです。
神社の社というのは何処でもそうでしょうが拝殿、そして回廊から本殿へと繋がっていて、そこが一体となってご神体が納められているのですが、
この本殿の裏手である杉木立で、女性の首吊り自殺があったのです。
私たち子供はすぐに興味本位で駆けつけましたが、参道横の駐車場には既に救急車や消防車が何台か止まっていて、物々しい雰囲気であり、私たちは参道横の山道を登っているときに、自殺者が担架に運ばれて下っているところを偶然見てしまったのです。
それは、まだ若い女の人でした。
顔や上半身は布を被せられて見えませんでしたが、下半身には模様のある着物と真っ白いひざや足先が眩しいほどに見えてしまったのです。
そして更に、現場へいってみると、本殿の後ろでは現場検証のお巡りさんでしょうか、数人の方が現場の様子を伺っていたようです。
そして何よりビックリしたのは女性の腰巻きのような紐が杉の枝から風に吹かれてユラユラと揺れながら、未だにぶら下がっていたのです。
ああ、女の人はあの杉の枝からぶら下がって自殺したのだなあ、と恐ろしさを想像するに充分でした。
何でも宙吊り自殺のときは、(私は絞首刑の場面の記録映画を見たことがあるのですが)自分の体重が支えきれずに首の骨を折りながら瞬間的に絶息絶命するのだそうですね。
そんなことがあってからは、私たちはこのような呪われた神社を、いつしか首吊神社といって、それ以来は神社には近づかなくなりました。
その理由は、自殺した女性の魂が祭神に移ったのでしょうか、神社の本殿から夜な夜な、すすり泣く声や、叫ぶような声、『子供を返せ』というような、なんとも恐ろしい叫ぶような女性の声が、風にのって聞こえてくるというのです。
ところで、この金刀比羅系の神社というのは漁業の神、商売の神、航海の神、として崇められ、毎年、旧暦の1月10日(新暦では2月中旬ころ)に、盛大に祭礼が行われています。
参道から主要道路にかけては露天商や芝居小屋、お化け屋敷などが開かれて大賑わいであり、特に近郷近在の海の関係者たちはこぞって参拝するそうです。
しかし、首吊り自殺者が出た年度においては盛大な祭礼は中止され、神社関係者と神主のみで細やかに祭事が行われたようでした。
今でも、この神社は呪わしい神社として、『首吊神社』の別称として、知る人ぞ知る、恐ろしい神社なのです。