【投稿者:半田ふみさん】
これは私が中学生の頃の出来事です。
当時私は、今とは違う古い家に住んでいました。
部屋の何割かは和室で、部屋の仕切りはガラス戸かふすま、そして玄関は引き戸…という、当時非常にオーソドックスだったつくりの家です。
飛び抜けて古い訳ではなかったハズですが、私が中学生になる頃には、度重なる地震や台風にもまれ、経年劣化も重なってかなりのボロ家になっていました。
よく見れば家の外壁にはヒビが入っており、土台の部分は一部浮いてスキマが見えていました。
「次に台風が来たらこの家、土台からはがれてコロコロ転がっていくかもね」なんて家族で笑い合ったものです。
家全体を少しずつ蝕む歪みは、やがて玄関に症状として現れました。引き戸を閉めた時、カギ穴がうまく嚙み合わないのか、カギの開け閉めがスムーズにいかなくなったのです。特に閉める方にちょっとしたコツがいるようになり、閉まったようにみえて閉め損ねていることも時々ありました。
けれど、当時は今ほどセキュリティ意識が強くなく、住んでいる場所が平和な田舎だったこともあり、「閉め損なっていてもまぁ、いいか」くらいの気持ちでいました。
そんなある日の夕食時のこと。母と一緒に夕食の準備をしていると、誰かが庭に入ってくるのが窓から見えました。
当時の家には小さな門があり、インターホンもその門についていました。だからその人物は、インターホンを押さず、いきなり門をくぐって庭に入ってきたことになります。
親戚の誰かだろうか、と思いながら玄関の方を覗いてみると、玄関の刷りガラスには、女性には思えないシルエットが浮かんでいました。私の家は女系一族で、いきなり玄関に来るような親しい親戚の中に、男性はひとりもいません。
じゃあ誰?と思いながら戸惑っていると、そのシルエットは玄関扉にニュッと腕を伸ばし、グッと力を入れました。建付けの悪い扉がガタッと音を立てました。それから立て続けに力を入れたようで、ガタガタガタ!と音を立てながら扉が何度も振動しました。
私は混乱して、ほとんど泣きそうになりながらキッチンの母の元に戻りました。母も誰かが来たこと、その誰かが異様な行為をしていることはすぐに察したようで、ふたりで混乱しながら抱き合っていると、庭からザク、ザク、ザク、と足音遠ざかるのが聞こえ、家の中はシーンと静まり返りました。
もしあの時、カギをかけ損なっていたら…何かの弾みでカギが外れていたら…あの人は家に入ってくるつもりだったのでしょうか。家に入ってきて、何をするつもりだったのでしょうか…。