【投稿者:半田ふみさん】
友人・Sは昔から海を怖がります。
海沿いの町に住んでいるのに、海が怖いなんて難儀なものです。
水族館も苦手です。学生の頃、そうとは知らずに誘った時には、まるで怖がりな人をお化け屋敷に誘ったかのような反応をされました。
けれどプールは好きです。プールの誘いは二つ返事でOKしてくれますし、水を怖がるそぶりは全然見せません。
海や水族館が苦手な理由を、Sは長らく教えてくれませんでしたが、大人になってからようやく私に打ち明けてくれました。
Sは小さい頃、両親と一緒に船に乗ったそうです。どこかに旅行に行く途中だったのか、はたまた帰る途中だったのか、それとも船に乗ること自体が目的だったのか、それすら思い出せないほど小さい頃です。
Sが乗る船は元居た陸をどんどん離れ、だだっ広い海の真ん中に躍り出ました。Sのテンションは最高潮。大はしゃぎで海を見渡し、両親に絡み、目にはいる物にことごとく指をさして「あれは何?」「これは何?」と質問を浴びせました。
その時、船の下に何か影が見えました。影、にしては白いものです。船と同じか、もしかすると、それよりも大きかったかもしれません。どこかで二股に分かれているようで、細く長いものも見えました。
「あれは何!?」
Sは傍にいた父親に聞きました。
父親は「どれだ?どれだ?」と言いながら、Sの指の先を辿って下を覗き見ました。
「あれ、あれ」とSが必死に指さす前で、白い影はだんだんと沈んでいき、やがて見えなくなってしまいました。結局、父親には見えなかったようです。
Sが海に怯えるようになったのは、それから10年近くも後になってからです。
当時はネット上で、怖い話やオカルト話が流行していました。私も一時、そういったものにハマったクチでしたが、Sも同じだったようです。怖い怖いと思いながら、検索する手が止まりませんでした。
そうして見つけた記事の中に、その画像がありました。それを見た瞬間、Sは鳥肌が立つ思いだったと言います。
「これだ…あの時の影だ!」
それは「ヒトガタ」や「ニンゲン」と呼ばれるUMAで、その名の通り、人間に近い見た目をした真っ白な巨大生物です。その画像を見たとたん、Sの頭には忘れていた幼少期の記憶が一気に蘇りました。
あの白い影はきっと「ヒトガタ」の体、そして二股に分かれた細長いものは、きっと「ヒトガタ」の腕…。
そう思って以来、Sは海や水族館が怖くなってしまったのです。