【投稿者:M.Kさん】
地元の友達と久しぶりに再会することにしたんです。社会人になって、それぞれ家庭を持って、年をとって。話題は尽きませんでした。ですが、一人だけ気になる男性がいました。それは、A村くんです。
学生時代はとにかくクラスのムードメーカーで、いつも彼の周囲には人だかりができていました。でも、今日の彼はなんだかとても元気がないんです。
どうしたのかと質問すると、急に、
「なぁ。N野のこと、覚えてるか?」
あまりの唐突な質問に、私は誰だっけ?と、思いました。記憶の中のクラスメイトの名前を思い出しても、N野という人物のことは記憶になかったのです。
「ほら。おとなしくて、いるかいないかわからなかった奴」
言われて、何となく思い出してはきました。そういえば、いたような気がしました。
女の子みたいに細くて、ほとんど喋らない、存在感の薄い子という印象しかありませんでした。
「俺さ。最近ジムに通い始めたんだよね」
いきなりの話題展開についていけなかったのですが、A村の話は続きました。
「そこのジムが短期間で鍛えられるって聞いてさ。それですぐに入会したんだ」
そこは、マンツーマンでトレーナーがついてくれて、その人に会った効果的なトレーニング方法を教えてくれるというところでした。
「トレーナーにランニングマシンを勧められてさ。そして、スタートしたら、変な質問してくるんだよ」
A村がゆっくりと走り出すと、トレーナーがいくつかの質問をしてきたらしいのです。子供のときに好きだったアニメや、遊んだおもちゃ、得意な科目に苦手な科目。さらには担任の先生の名前。
A村が答える度に、少しずつスピードが上がっていくのだそうです。7kmが8kmに、そして9kmへとどんどんスピードが上がっていき、かなり疲れてきたそうです。
すると、インストラクターが、
「小学生の頃。ある同級生の男の子を、落とし穴に落としたことはありませんでしたか?」
落とし穴?いきなりの質問にA村な惑いながらも答えました。そんなことはしてないと。すると、グンッとスピードが上がり、A村が文句を言おうと顔を上げたとき、インストラクターの顔を改めて見てハッとしたそうです。
褐色にやけた逞しい肌をしていましたが、まぎれもなくN野だったそうです。
「俺、思い出したんだ。あのとき、テレビで落とし穴が流行ってさ。試しに掘ってみたんだ。そして、N野が近くにいたから落としたんだよ。でさ、ついうっかり忘れて帰ってきたんだよ」
A村は、子供時代に起こした自分の悪ふざけを思い出し、ゾッとしたそうです。なぜかというと、ランニングマシンがある部屋には、A村とN野の2人きり。そして、ランニングマシンのスピードは、もうかなりのものだったそうです。
「マシンの止め方も知らないし、もしかしてずっとこのまま?なんて思ったよ」
A村は過去のいたずらを謝ったらしいのですが、N野はうっすらと笑みを浮かべてその場を去ったそうです。
A村は大声で助けを呼び続け、防犯カメラで異常を察した警備員によって助けられたそうです。
「まさか、こんな風に会うとは思ってなかったよ」
A村は、過去のおこないを後悔していると言いました。
N野のやったことは許せないのですが、そんな風にしてしまったのは自分なのだと、A村は深いため息をついていました。
そこに、少し離れたところから、ワイワイ声がしてきました。
「え~っ。本当にN野くん?すっごい変わったね」
「すっごいイケメン。見違えちやった」
私は、思わずA村の顔を見ました。A村の顔色から、みるみる血の気が失せていきます。
彼は、きっともう2度とN野は自分の前に現れないのだろうと思っていたのでしょう。
そして、A村が立ち上がろうとしたそのとき。
「久しぶり。A村」
そこには、ニッコリと笑うN野が立っていました。
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