【投稿者:B子さん】
友人のA美が急に、「山に行こう」と、言ってきました。
そこからどういう流れがあったのかは覚えていないのですが、A美の運転する車の助手席に乗せられ、ある山へ向かったのです。
その山は、今となってはどこの地域にある何という名前の山なのか思い出せませんが、辺りは見渡す限り田畑。
民家は遠くにぽつんぽつんとあるくらいで閑散としていました。
山の麓には見上げる程の大きな赤い鳥居があり、鳥居をくぐってすぐ見える階段をA美の後を追って上っていくと、上り切ったところに不思議な景色が広がっていました。
そこは4畳半くらいの狭い土地で、真ん中には小さな祠が建っています。
私の後ろにはさっき上ってきた階段、目の前には随分長い間手入れされていないように見える古びた祠、左右と祠の後ろには鬱蒼と茂る木々があり、それ以上先へは進めません。
私より先に階段を上ってきたはずのA美の姿がいつの間にか見当たらなくなっていて、異様な雰囲気に怖くなった私は、一刻も早くこの場から立ち去ろうとしました。
祠に背を向け階段を下りようとしたその時、後ろからギィ…ギィイ…と、奇怪な音が聞こえてきたのです。
「振り向いてはいけない」と思いながらも、何の音なのか気になった私は肩越しにそっと後ろを見て、すぐにそうしたことを後悔しました。
さっきまで閉まっていたはずの祠の扉が、5cm程開いていたのです。
扉の中は真っ暗で何も見えませんが、そこから誰かが私をじっと見ているような嫌な視線を感じました。
これ以上ここにいるともっと恐ろしいことが起こるのではないかと恐怖し、震える足で急いで階段を下りていきました。
やっとの思いで階段を下り切ったものの、近くに停めていたA美の車が見当たりません。
しばらく周囲を探しましたがA美も車も見つからず、どうやって帰ったのか覚えていませんが、私は気づけば自分の家の中にいました。
その後、他の友人達に「この前A美と、ある山に行ったんだけど不思議なことが起きて…」と話すと、友人達は揃って「A美って誰?そんな子いたっけ?」なんて言うのです。
実は私もA美の顔や声がどんなだったか全く思い出せず、また、スマホに入っていたと思っていたA美の連絡先がどこにも無くて、結局A美の正体は分からないままでした。
その出来事の後からだと思います、私が山に行くと、必ず雨に降られるようになりました。
「山の天気は変わりやすい」とは言うものの、それにしてもおかしいのです。
どんなに晴れていても山に登って数分で土砂降り雨が降ってきて、私が山を降り切ると途端にピタリと雨が止むのです。
徒歩で登っても、車で山道を登って行っても、どの山に行っても、山に行くメンバーを変えてみても雨に遭います。
「どうしてなのか」とモヤモヤしましたが、友人に誘われて付き合いで軽くハイキングする程度で元々あまり山に行くことはないので、そこまで気に留めませんでした。
山に登ると必ず雨が降るようになって3年経った頃、職場で仲良くなったB子とともに、占い師に占ってもらうことになりました。
B子は占い好きらしく、「一緒に行こう」と誘われてとくに断る理由がなかった私は、B子に案内されるがまま占い店へ行ったのです。
最初にB子が占ってもらい、その間、私は待合室で自分の順番を待っていました。
そして自分の番になったので占い師の待つ小部屋に入ると、占い師は私を見て開口一番「あなた、何てもの憑けてるの!?」と、驚きの声を上げました。
続けて「とりあえずの対処にしかならないけど…」と言いながら、ポケットから出した小さな袋に指を入れて何かを摘まんで取り出し、私の肩や背中にかけてきたのです。
どうやらそれは塩のようで、「何が憑いていたんですか?」と恐る恐る聞くと、占い師はうんうんと唸りながら「恐らくなんだけど…」と語り始めました。
占い師によると、私には、昔は守り神だったもの(妖怪とは違うけれどそれくらい古いもの)が憑いているのだそうです。
もしかしてと思い、以前体験した不思議な山の祠の話しをすると、「きっとそれね。今すぐ祟るようなものじゃないけれど、ずっと憑けていていいものではない」と言われました。
また、占い師曰く、A美は恐らく存在しない人物で、私は憑いているものと波長が合うので引き寄せられてしまったようです。
山に登ると必ず雨が降る件については、その山々の守り神が私に憑いているものを嫌がり、「山に入ってくるな」と警告するかのように雨を降らせているのだそうです。
占い師は最後に「知り合いの祈祷師を紹介するから、その人に憑いているソレを取ってもらうといい」と言って、祈祷師の連絡先を教えてくれました。
占い師には私に憑いているものを祓う程の力はないようで、ただぼんやりと憑いているものの正体が見えるだけなのだと言われました。
後日、占い師に紹介してもらった祈祷師の元へ行きました。
占い師に教えられた通りの場所へ向かうと、閑静な住宅街の中にある、何の変哲もない一軒家に辿り着きました。
インターフォンを押すと、出てきたのは50代くらいのごく普通の女性で、「○○さん(占い師)の紹介で来た方ですね、どうぞ上がって」と家に上げてくれたのです。
和室に案内され、その女性が祈祷師なのだと自己紹介されました。
そして祈祷師の対面に座って目を瞑るように言われその通りにすると、祈祷師が呪文のような言葉を唱え始めました。
どれくらいの時間そうしていたのか分かりませんが、正座している足が痺れてきた頃、バキバキバキバキッという甲高いラップ音が鳴り出しました。
びっくりして目を開けようとすると、「まだ目を開けてはいけません!」と祈祷師の切羽つまった声が聞こえ、何か恐ろしいものでもいるのかと思ってギュッと目を瞑りました。
鳴り続けるラップ音に怯えながら耐えていると、祈祷師の呪文を唱える声が一段と大きくなり、その瞬間、私の後ろの方からブワーッと物凄い勢いで風が吹いたのです。
風に押されて体勢を保てず前に倒れ込むと、祈祷師が「もう目を開けていいですよ」と、声をかけてきました。
その頃にはラップ音も鳴り止んでいて、そして心なしか体が軽くなったように感じました。
部屋を見渡すと窓は閉まったままで、「さっき吹いた強風は何だったんだろう」と不思議に思っていると、祈祷師が「憑いていたものは元の場所に帰ったみたい」と言いました。
「ここに来るのがもう少し遅かったら、あれは祟りになっていたと思う。でも、もう大丈夫ですからね」と優しく言われ、安心から思わず涙がこぼれました。
祈祷師がしっかり祓ってくれたからか、それ以来、山に登っても雨に降られるということはなくなりました。
私に憑いていたものの正体を具体的に教えてもらおうとしましたが、祈祷師から「詳しく知ってしまうとまた縁が出来ちゃうから」と止められたので、知らないままです。
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