【投稿者:半田ふみさん】
ピーンポーーン。
家の中に、玄関チャイムの音がふんわりと響きました。
高校生だった私は、母が水仕事から手を離せないのを確認すると、テスト勉強を中断して席を立ちました。
インターホンのカメラを見ると、駐車場の方からおばあさんがノロノロと歩いてくるところでした。
足腰が悪いのか、それとも単純に年齢のせいなのか、その歩みは遅く、私は若干ソワソワしながらおばあさんの到着を待ちました。インターホンのカメラは一定の時間がたつと自動で切れてしまうので、私はそれを気にしていたのです。
幸いカメラが切れる前におばあさんはインターホンの前に到着しましたが、何か話し出すかと思いきや、無言で郵便受けに手を突っ込みゴソゴソするばかり。
こちらから声をかけるべきか、と口を開いたところで、カメラの映像がプツンと切れてしまいました。
母の「誰?」という声に「さあ…?」と答えながら、切れてしまったカメラを付けなおすにはどのボタンを押せばいいのか…とまごまごしているうちに、直接自分が玄関先に出た方が早いことに気づき、私は玄関に走りました。
しかし、玄関扉を開けた頃には、おばあさんの後姿は道路の方に遠ざかっていました。
まあ、引き留めるまではしなくていいか…と思いながら、郵便受けを開けてみると…中身は空。
「え?」と思いながら再度顔を上げましたが、おばあさんの後姿はもう曲がり角の向こうに消えていました。
郵便受けに手を突っ込んでおきながら、何も入れていない…?
一応、郵便受けの近くにチラシなどが落ちていないか確認しましたが、それもなし。
まさか、中に入れたのではなく、中身を抜いたのではないか…?と思い当たり、私はゾッとしました。我が家の郵便受けは構造上、やろうと思えばそれが可能なのです。
いやいや、まさかそんなことは…。と頭で否定しながら、家の中に入ったところで、強い違和感が閃きのように頭をかすめ、鳥肌が立ちました。
玄関チャイムを鳴らしたのは誰…?
玄関チャイムを鳴らすとインターホンのカメラが付く。それが当然の順序ですが、玄関チャイムが鳴り、インターホンのカメラが付いた時点で、おばあさんはまだインターホンの前に到着していなかったのです。
では、なぜ玄関チャイムが鳴ったのだろう…?
幸いにして、そのような出来事はそれ1回きりでしたが、玄関チャイムが鳴ると今でも時々ドキッとしてしまいます。