オカルト・トンデモ好きの皆さんにもよく知られる日本の偽書というと、まず真っ先に『竹内文書』が挙げられます。
もうひとつ、2000年代以降ほぼ偽書とみなされるようになった『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』については、読み方すらあまり知られていませんが、実は時代小説にも大きな影響を与えています。
その作家のひとりが高橋克彦さん。東北や古代社会を舞台に壮大な作品を発表し続けていますが、彼が根本としているのがこの東日流外三郡誌なのです。
本書「東北・蝦夷(えみし)の魂」は、これから高橋作品を読んでみたいと思うオカルト好きの皆さんや、トンデモ史観に基づいた有名作品を読みたい!と考える方におすすめの、ガイドブック的な立ち位置の本です。
震災から数年後、岩手出身の高橋さんが、どういった東北歴史観をもち、東北への熱い思いをこめて作品をつづってきたのかをインタビューで語るのがメインとなっています。
作品引用が多いので、高橋作品未経験の方でもお試し感覚で楽しむことができるでしょう。
登場人物たちがアラハバキ神のシャーマニズムによってトランス状態になるシーン、三郡誌を根底とした民族の起源が語られるシーンなどの抜粋を並べてみると、オカルト好きの血が騒いで、今までやや敬遠していた分厚い歴史小説にも手を伸ばしてみようか、という気持ちになります。
例えば、東日流外三郡誌では東北の先住の民・蝦夷の祖先について、もともとは出雲および畿内に住んでいた人々が、西方から進出してきた民族(=のちの大和朝廷)との権力抗争に敗れ、北方へ逃れてきたのだとしていますが、高橋作品ではこの設定がそのまま使用されています。
今から1000年以上前、東北各地には知られざる高い文明が栄華を誇っており、大陸はもちろんのこと、欧州や中東などとも独自の貿易航路をひらいていて、十三湊(青森県)は国際港として機能していた…というのですから驚きです。
また、蝦夷が崇める製鉄の神・アラハバキ神についても、お決まりの遮光器土偶ビジュアルで言及されています。
構成が独特なので、少し読みにくさを感じる方もいるかもしれませんが、読了後は全く別の観点で東北を見つめることができるようになる本です。
筆者は東北旅行に出かける前に気軽に手にしたのですが、オカルト視点でもこれだけ東北史は楽しめるのか!ということを大発見してしまい、高橋作品に挑戦するようになりました。圧倒的多数の朝廷軍にゲリラ戦法で立ち向かった蝦夷の英雄アテルイを主人公に、坂上田村麻呂との真剣勝負を壮大に描く「火怨」、大河ドラマ原作にもなった「炎立つ」。
いずれも東日流外三郡誌による【僻地と見せかけて、実は古代文明なみに凄かった(かもしれない)蝦夷の東北】という設定をふまえて読むと、さらに楽しむことができます。
・タイトル:東北・蝦夷の魂
・著者:高橋克彦
・出版社: 現代書館 (2013/3/15)
・ジャンル:オカルト