日本人の旅行先としても人気のフランス。華やかなパリのイメージとはまた違って、地方には様々な味わいがあり、訪れる楽しみも深いものです。
今回はそんなフランスの地方で実際に起こった、未確認生物(UMA)による歴史的な事件をご紹介しましょう!
18世紀のフランスを震撼させた「ジェヴォーダンの獣」とは? ~事件のあらまし~
当時も現在も正体がはっきりしないまま…という点で、この「ジェヴォーダンの獣」はまぎれもなく未確認生物(UMA)であるといえるでしょう。
ネッシーやイエティといった有名どころのUMAは得てしてシャイ(?)で、人間に遭遇してもすぐに立ち去ってしまいますが、逆にこのジェヴォーダンの獣は、人間を襲いまくって食べてしまうという恐ろしいUMAです。
【その一】1764年、被害ぼっ発
フランス革命より20年以上さかのぼる1764年の夏。フランス南部ジェヴォーダン地方(現・ロゼール県周辺)の農村で、牛の群れを連れていた14歳の少女が何ものかに襲われ、食い殺されてしまいました。
それを皮切りに、放牧の群れに付き添う女性や子どもが次々と襲われ殺害されていく、という事件が相次ぎます。被害に遭った村の人々は幾度も山狩りを行いますが、それらしき害獣は見つからず、不思議な動物の目撃談ばかりが増え、やがて「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれるようになっていきました。
【その二】ルイ15世がハンターを派遣!
被害が深刻になるにつれ、ニュースは全国規模で伝えられて、ついに国王ルイ15世がお抱えハンターを差し向けるまでに至ります。
同時に、現地民を動員した大規模な山狩りも繰り返し行われますが、結果としては大量の狼を駆逐するだけで、「獣」による被害は全く収まりません。
罠や山狩りの網をかいくぐるようにして「獣」は出没し、非力なターゲットを狙いすまして、殺戮を繰り返したのです。
【その三】1767年、猟師シャステルによる「獣」の射殺
パリから派遣された専門家やハンターたちが芳しい結果を出さないまま撤退してしまった後も、ジャン・シャステルという猟師は獣を追い続けました。
最初の被害発生から3年後の1767年、彼はついに「獣」を仕留めました。これ以来謎の襲撃はぱたりと止んだため、シャステルの銃殺した動物こそが獣の正体であった、と一般にも受け入れられたのです。
獣の死体を観察した地元の医師たちは、【狼にも見えるが、我々が見慣れているこの地方のものとは、全くかけ離れた異質な外見】というコメントを残しました。
王に献上するため、パリに送られたときは体毛も抜け落ちて、生きていた時の姿がわからないほど腐敗していました。
死体は廃棄され、獣の正体が何であったのか、正確に知ることは不可能となってしまったのです。
「ジェヴォーダンの獣」の正体は…?各説を紹介!
このニュースが当時のフランス社会を震撼させた理由は、その襲撃の猟奇性と、「獣」の奇妙なルックスにあります。
謎の獣の正体については現在でも議論されており、色々な候補が上がっています。
【説01】狼、あるいはクマなど既知の野生生物?
当時、野生の狼の群れやクマが牧畜動物を襲う、という被害は珍しくはありませんでした。
大型の狼が、単体で人間を襲い続けていたのではないか、というのが一番穏当な意見です。
【説02】別の場所から連れてこられた凶暴なペットが逃亡した?
獣の襲撃が広がるにつれて、命からがら逃げおおせたという人たちが、目撃談を語るようになりました。
それによれば「仔牛ほどの大きさの4つ足動物」、「背中にしま模様が見られ」、「耳がピンと立っていた」という特徴が共通しています。
いくら動転していたにせよ、こんな変な生き物を、狼に慣れた地方の人々が見間違えるでしょうか?
ここで有力になるのが、エキゾチックな輸入動物という説です。例えばハイエナであればこういった特徴に合致しますし、当時の人がモンスターのように受け取っても不思議ではありません。
この頃は貴族や富裕層の間で、遠方の動物をペットとして持ち込む流行があったため、それが逃げ出して人間を襲っていたとも考えられます。
【説03】まさか…人間だった?
宇宙怪物チュパカブラス説とともに、最もオカルト的なのが「狼男説」です。
フランスには、ルー・ガル―という狼に変身する人間の伝説が浸透していたので、事件当時から獣の正体を狼男と考えていた人も少なくありませんでした。
また、毛皮をかぶって動物に変装したシリアルキラーによる連続殺人事件があった、と便乗犯罪の線でとらえる見方もあります。
【説04】生物兵器としてのハイブリッドモンスター軍団?
これが真相であれば怖いのですが、「狼と犬の交配種を凶暴に育てた、ハイブリッド動物だったのではないか」という説もあります。
生物兵器として秘密裏に生育・訓練されていた個体が、何らかの理由でジェヴォーダン地方に逃げ出し、人を襲っていたのでしょうか?狼と犬の人為的交配はかなり古くから行われており、軍犬としても利用されてきた例があります。
この他にも、絶滅した巨大な肉食動物が何らかの理由でジェヴォーダンに現れた、狼の姿をした悪魔だった、などなど多彩な説が飛び交っています。
「ジェヴォーダンの獣」にまつわる数々の謎
250年以上が経過した現在となっては、獣の正体の特定は非常に困難です。
死体が埋められた地点を探して発掘調査を行い、骨のDNA検査ができればいいのですが、実際にはどこに廃棄したのかも定かではありません。
また、目撃された獣の習性や事件の背景にも、多くの不可思議な点があることを特筆しておきましょう。
【謎01】なぜ女性や子どもばかりを襲ったのか?
これが一番最初に挙げられる、「獣」の奇妙な習性です。
襲われた人々は里から離れた場所で牧畜や農業に従事しており、周囲には牛や羊といった動物が一緒にいたはずなのですが、獣はこういった動物には全く手を出さず人間だけ、それも女性と子どもという非力な対象だけを狙って襲撃をしていました(マリー・ジャンヌという女性は果敢にも熊手で応戦して撃退し、現地には銅像が建っています)。
牛たちが女性を取り囲むようにして守ってくれたため、獣は手を出せずに撤退したというケースもあります。
この事から、既知の野生生物であったにせよ、ペットだったにせよ、獣が「女性や子どもの肉に親しんでいた」という仮説が発生します。
野生生物であっても、一度嗜好が定着するとターゲットを絞り込むことが知られています(北海道・三毛別ヒグマ事件など)。一番最初の襲撃がたまたま少女であったため、それで味をしめたか、あるいはそれ以前に知られていない被害者がいたということでしょうか。
【謎02】ジェヴォーダンという土地柄が「狙われた」のか?
襲撃を単なる害獣事件としてではなく、政治的・宗教的背景から読み解く研究家もいます。
このジェヴォーダン地方は、新教徒が多い土地柄であり、当時のカトリック教会からはやや問題視されていたきらいがありました。
このことから「獣は神による天罰である」として、被害村落の救済に非協力的であった聖職者もいましたし、また2001年のフランス映画「ジェヴォーダンの獣」にて提案されているように、啓蒙思想に対する政治的な理由から、ジェヴォーダン地方がスケープゴートとして利用されたという見方もあります。
【謎03】広範囲にわたる頻繁な出没の謎
獣による被害報告は、被害者が出たもので約100件、未遂も含めると300件以上に及びます。
その発生箇所と日付のデータを丹念に調べ上げたある研究者は、「ひとつの個体がこんなに広範囲に出没するというのは、時間・距離的に無理がある」としています。
確かに獣はジェヴォーダン地方の中でもマルジュリード山岳地帯を中心に暗躍しましたが、被害分布をみてみると、遠いところでは300kmの隔たりがある地点もあります。
この事から、もしや「獣」は一匹ではく、複数いたのではないか?という説もあり、ハイブリッド軍団説と関連付けられています。(ただ被害報告の総データには、人間による便乗犯罪や、他の一般的な野生動物による獣害などが混ざっている可能性もありますが…。)
まとめ:謎のまま終結した、「ジェヴォーダンの獣」事件
猟師シャステルによる射殺の後、後続被害が発生することはなくなりましたので、この事件はいったん収束したと見られています。
ビッグフットなど、数世紀にわたって目撃談が継続しているUMAに比べると一過性が高く、「ジェヴォーダンの獣」は種としてはもはや存続していないとみるべきでしょう。
現在のフランスでも放牧中の家畜が殺された、というニュースは時折ありますが、これはクマ、あるいは欧州東部から移動してきた狼の群れによる食害であることがわかっています。
この意味で「ジェヴォーダンの獣」は、近代化直前のフランスが最後に遭遇した、謎の動物との闘いであったといえるでしょう。
とはいえ、これ以降フランスにUMAが出現しないという確証はどこにもありません。オカルト・UMAファンとしてはアンテナを全開にして、未知との遭遇に備えたいものです。
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