【投稿者:よもぎさん】
夜20時頃、PCで動画サイトを見ながら食事をしていると、ピンポンピンポンピンポンと3回連続でインターフォンが鳴りました。
どこか焦っているような雰囲気を感じて、どうしたのかと思って出てみると、そこにいたのは最近隣の505号室に引越してきたA田さんでした。
「夜分遅くにすみません。いきなりこんなこと聞くのもどうかと思うんですけど、605号室って今、誰も住んでないですよね?」
「A田さんの真上の部屋ですか?確か、空室だったと思いますけど」
「そうですよね。さっき集合ポストを見に行ったら、ガムテープを貼って使えないようにしてあったし、誰も住んでないですよね」
「何かあったんですか?」
「……1ヶ月前から、真上の部屋からだと思うんですけど、夜中にすごく大きな音が聞こえるんです。毎日騒音がするので、一度、管理会社に苦情を入れたんですが、その時に変な反応をされて」
「変な反応?」
「『注意はしておきますけど、改善されるか分かりません』って」
「確かに…なんかちょっと変ですね。その605号室に住んでいるのが、余程、常識が通用しないような人なんですかね?」
「さぁ……、どうなんでしょう。とにかく大きな音なんです、床に重い物を思いっきり落としたような。他にも、部屋を走り回っているような足音だとか、赤ちゃんの泣き声もするんです。いつも夜中2時過ぎに聞こえるんですけど」
「決まった時間に聞こえるんですか?ますます変ですね」
そこまで話を聞いて、一瞬「深夜に聞こえるってことは、まさか幽霊?」なんて考えも頭を過りましたが、A田さんを変に不安にさせると思い、口には出しませんでした。
「私はそんな物音も赤ちゃんの泣き声も聞いたことがないですけど、そんなに大きな音なら、私からも管理会社に連絡しておきましょうか?」
「本当ですか!?有難うございます、助かります!夜遅くにすみませんでした。それじゃ」
A田さんから夜中2時頃に物音がすると聞いたので、その日は3時まで起きていましたが、やはり何も聞こえません。
でも、A田さんはかなり参っている様子だったので可哀想に思い、翌日、管理会社へ電話しました。
「株式会社○○です」
「お世話になっています、○○マンション504号室の○○です。605号室のことでお話があるんですけど……」
「……605号室、ですか?どうされましたか?」
「605号室って今どなたか住まれてますか? 605号室の真下の部屋に住むA田さんから、騒音で相談されたんです。A田さんは以前、管理会社さんに騒音の相談をしたそうですが、まだ改善されてないみたいで。605号室の方に注意など、何かされたのかなと少し気になりまして……」
「605号室は……、今はその……」
「なんですか?」
「えぇと、605号室は空室です。だから物音が聞こえることはないと思うのですが」
「でも、A田さんは1ヶ月から毎日大きな物音が聞こえるって言ってましたけど」
「しかし、605号室は3ヶ月前から空室でして……」
「……そう…ですか。 わかりました、それでは失礼いたします」
このまま話していてもらちが明かないと思ったので、電話を切って頭の中を整理することにしました。
605号室に誰も住んでいないということは、他の部屋の物音か、それとも空室の605号室に誰かが忍び込んでいるとしか考えられません。
A田さんと再度話をしようと思って玄関の外に出た丁度その時、誰かが階段を上がっていくような足音が聞こえました。
(そうだ、605号室に誰か住んでいないか、6階の人に聞いてみようかな。同じ階の人なら何か知ってるかも)
階段を上がり6階に辿り着くと、さっきの足音の主らしき人が、ある部屋に向かって歩いていました。
「すみません!ちょっと聞きたいんですけ、ど……」
勢いよく声をかけたのですが、途中で言葉が詰まってしまいました。
足音の主が、ある部屋の前で立ち止まったかと思うと、頭から吸い込まれるように扉の中へ消えていったからです。
足音の主が消えていった部屋へそっと近づき、部屋番号を確認して心臓が止まるかと思いました。
その部屋は、誰も住んでいないはずの605号室だったのです。
急いで自分の部屋に戻り、もう一度管理会社に電話をして先程見たことを伝えると、事情に詳しいという方が電話を代わり、ある話をしてくれました。
その方によると、このマンションが建った時から605号室は曰く付きの部屋なのだそうです。
「誰も住んでいないはずなのに騒音がする」「半透明の人が吸い込まれるように扉の中へ入っていくのを見た」といった、住人からの苦情や目撃情報が絶えない部屋だと教えてくれました。
「何度もお祓いしたんですけど、効果がないみたいでして。一応、605号室のお隣の部屋だとか、真下の部屋の方には住む前に伝えるようにしているんですけども」
「A田さんは何も知らない様子でしたけど……」
「ええっ、そうだったんですか?それは私どもの落ち度ですね。後程、A田さんにご連絡致します」
管理会社からA田さんに事情説明があったようで、A田さんは「真上の部屋の騒音の正体、幽霊だったんですね。そりゃ、苦情入れても改善しませんよね」なんて言って、引越していきました。
私はとくに物音は聞こえなかったのでそのまま住み続けたのですが、階段を上がっていく半透明の男の人を見てしまうことが増えたので、しばらくして引っ越しました。
自分の部屋ではなく、上下の階の部屋が、あるいは隣の部屋が事故物件だったということは、案外よくあることだと思います。
引越しの際は、自分が住む予定の部屋だけではなく、上下左右の部屋の事情も確認しておくことをおすすめします。