【投稿者:初心者Mさん】
小さな頃から食べることが大好きだった私に、好き嫌いなどはありませんでした。なんでもよく食べる子だったのですが、ある日突然今まで好きだったものがおいしくないと感じ始めたです。
大好きだった炭酸飲料やコーヒーなどの飲み物が受け付けなくなり、水もなんだかおいしくない。それでものどがかわいたら仕方なく飲まなくてはならない。そんな状態に陥ってしまったのです。
この時、私は引っ越したばかりだったのでストレスが原因ではないかと友達などにも言われていましたし、味覚は大人になると変わるとも言うのであまり気にしないようにしていたのです。
しかし、飲み物だけではなく、今度は白米も異臭がするような気がして食べられなくなってしまい、更にお魚も肉類もと口に入れるものほとんどが異臭がするようになって受け付けなくなっていったのです。お腹は空いているのに食べるものがない状態。コンビニなどに行き、並べられているものを見るとおいしそうだと思うのに、口に入れた瞬間吐き出したくなるのです。
そんななかで唯一食べられたが飴。この頃には水なども口に入れた瞬間どぶのような腐った匂いがするようになっていたので飴で空腹を満たして水分も取るというような毎日を過ごしていました。
当然体重は落ちていきますし、お腹も空いていて脳に栄養が行き渡らないので仕事にも支障が出てしまうようになりました。
さすがに体調が心配になったので病院に行ったところ、点滴を打ってもらい、なおかつ摂食障害の可能性があるとして精神科を薦められてしまったのです。引っ越してから体重はすでに8キロも減っていましたので、精神科に通うことになりました。薬を処方してもらって、カウンセリングなどを受けても治ることはありません。なぜなら私は食べたいのに食べられるものがないという状態に陥っていたからです。
お寿司も焼き肉もお酒も大好きだったのに、匂いをかいだら食べられなくなる。テレビなどで見ているとおいしそうだと思うのに、口に入れるとどぶのような匂いがして食べられない。このような状態が二ヶ月ほど続いた時、私は職場の、とある人に心配されて声をかけられました。
その人とはほとんど話したことがなかったのですが、他の人が「しっかり食べなきゃだめよ」なんて言ってくるなかでその人だけ「食べたくても食べられないんでしょ」と私の気持ちを分かっているみたいでした。
しかし、それは摂食障害に対しての理解とは違ったようで「食べられなくなる少し前に、例えば引っ越したり、新しい交友関係とかできたりした?」とおかしなことを聞かれたのです。
そのため、引っ越したことを告げると、その家でおかしなことはないか、食べられなくなる以外に変わったことは起きなかったかなどを執拗に聞かれ、不思議に思いながら思い出すと、そういえば最近異様に青いものを集めたくなったり、青が自分のカラーのように執着的に青を意識するようになったかもしれないということを伝えると、その人は何かを理解したように頷いたのです。
そして、自分の知り合いに会ってほしいと言われました。あまり仲良くない人だったため、躊躇していると「もしかしたら、身体を乗っ取られるかもしれない」と告げられたのです。それ以上は説明しようとしないため、とにかく会うことを決意。この偏食が治ってくれるならというような思いも強かったのです。後日、カフェで会うことになりました。
予定の日の前日、私は早めに布団に入ったのですがなかなか寝付くことができません。おなかが空いて眠れないのです。仕方なく起き上がり、飴をぼりぼりと食べていたのですが、なんとも重苦しい空気に変わり、座って食べている状態でなんと金縛りにあってしまったのです。初めての金縛りに戸惑っていると、消していたテレビがつき、夜中なのに幼児向けのアニメが流れ始めました。動かない身体で恐怖が襲っているなかで、明るいアニメが流れている光景は更なる恐怖。
どうにかして動かなきゃ、ここから逃げなきゃと思っていると、バタバタバタと誰かが走る足音が響き、それが部屋の中を走り回っている音だけが最初は聞こえていたものの、段々と「キャハハハ」という男の子の笑い声も加わっていったのです。それは明らかに私の目の前で走り回りながら笑っている声。でも姿は見えません。何がなんだか分からずに恐怖でおかしくなりそうになっているところに、突然台所の水がジャーっと流れ始めると、笑い声と足音はぴたっと止まり、テレビも消えて私の金縛りも解けたのです。
それでもしばらく恐怖で動くことが出来ませんでした。しかし、ようやく動けるようになり、水を止めに行きました。夢だったのかと思うほど静まり返った部屋。このままこの部屋にいるのも怖いけど、外に出るのも怖い。その日は結局眠ることが出来ず、部屋中の電気をつけてテレビもつけて過ごしました。
そして約束どおり、眠い目をこすりながら職場の人とその知り合いの方に会いに行ったのです。その”会わせたいという人”は50代くらいの男性でした。その人は私を見るなり「昨日は大変だったのね」と声をかけてきたのです。そして私のなかに男の子がいる。その男の子は餓死してしまったため何も食べられないのだと伝えられました。なんでも、私が引っ越してきた場所に以前住んでいた男の子の霊が私に乗り移っているというのです。
でも、事故物件だとは聞いてなくて、にわかに信じられませんでした。しかも、その男の子は今住んでいる家が建つ前に亡くなった男の子らしく、両親も帰ってこないなかで食べ物がなくなり、水道もとうとう止められて家においてあった飴でしばらく生きていたのかもしれないと言われたのです。だから、食べ物が全ておいしくないと感じるのかもしれないと……。昨日突然出てきたのではなく、職場の知り合いの方が霊感が強く、私がその方と結びつきが出来たため見えたもので、いつもそこで走っているんだと教えられたのです。
私はすぐにその家を離れるように言われ、お札をもらいました。仲の良い友達に相談すると、しばらく家にいてもいいと言われ、その日の夜から帰らなくなり、その後引越しもしました。しばらくは食べ物を受け付けない生活が続いたものの、水やお茶が以前のようにおいしいと思えるようになり、そして白米もお肉もおいしいと思うようになり、食欲も戻ってきました。幽霊に取り付かれると、時にはその人が生きていたときの嗜好が移ってしまうこともあるんだそうです。
甘いものが苦手だった人が、突然甘党に変わったりする場合には自分じゃない誰かの嗜好が乗移っているかもしれない。そして、それは体の乗っ取りが始まっているのだと聞きました。突然好き嫌いが変わったら、年のせいじゃなくてこの世のものではない何かが身体を乗っ取ろうとしているかもしれないと疑うのも大切なのかもしれません。