【投稿者:kihoさん】
私が小学六年生になる年に、父の転勤に伴って引っ越しをしました。
新しく住む家は、父の会社が所有する社宅で、小さくて古い木造の平屋でした。
「わあ、汚い家…」というのが第一印象でしたが、そんなことを言うと父と母に怒られると思い、黙っていました。
でもなんとなくいやな感じのする家でした。
引っ越してしばらくの間、荷物を片付けるまでは家族四人同じ部屋で寝ていましたが、片付いてからは、それぞれの部屋で寝ることになりました。
でも部屋数が少なく、私は母の部屋の隅にタンスで仕切りを作ってカーテンを引き、そこを私の部屋にしました。
兄にはちゃんと六畳の部屋があるのに何で私にはちゃんとした部屋がないのか、私はいつもそんな扱いをされていたので、ちょっと悲しかったけれど仕方ないと諦めました。
家の中の一番突き当りの部屋が、兄の部屋になっていました。
ある晩、兄が真っ青な顔をして母の部屋に入ってきました。
何かに怯えているような声で、母に向かって盛んにしゃべっていたけれど、私はその時眠かったので、あんまり聞いていませんでした。
ただ「兵隊さんが…」という単語が聞こえてきました。
翌日、母に「お兄ちゃん、昨日なんか言いよったね?」と聞いてみましたが、母は「たいしたことなか」と言って何も教えてくれませんでした。
私もあまり気にしませんでした。
新しい生活に慣れるのに精いっぱいで、兄のことにまで気が回ってなかったのだと思います。
それからしばらくたった夜、私はベットの上で寝ていました。
突然何かが私の胸の上に乗って来たように感じました。
「く、苦しい…」息が出来ません。
なに?怖かったけれど、状況を把握したかったので薄目を開けると、私の身体の上に誰かが乗って私の首を絞めているように見えました。
「誰!」私は大声をあげたつもりだったけれど、かすかな囁きのような声しか出ません。
体も動きません。
これが金縛りなのか?精一杯、力の限り大声を出しました。
実際は出てなかったかもしれませんが、その反動で身体が動きました。
そして目の前に、私の身体の上に乗っていた人らしき影を見ました。
灰色のボロボロの服を着て、目がぎょろぎょろして血走っています。
「キャー!!」私の叫び声とともに、その人間はフッと消えて無くなりました。
母が私の声にびっくりしてカーテンを開けて入ってきました。
「どうしたとね?」私は母に「誰かが自分の体の上に乗って首を絞めてきた」と泣きながら訴えました。
そこに兄もやってきて、「お前も見たんか。
兵隊さんやったろ?」と言います。
そうだ、昔の戦争映画に出てくる兵隊さんの恰好だった。
兄も同じような経験をしていたのです。
翌日、父にもそのことを言いました。
父は「このへんは第二次世界大戦の時、軍事工場があって敵に狙われて大きな空襲があったからな、きっと戦争で亡くなった人の霊だろう」と言いました。
すぐに親戚のお坊さんを呼んでお祓いをしてもらいました。
その後、何度か人影が見えたことがありましたが、あの夜のような怖い出来事は、もう起こりませんでした。
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