【投稿者:M.Kさん】
社会人になっても、かつての同級生と会っては、時々皆で集まって女子会を開いています。
その日は、久しぶりということもあり、ちょっと豪華にしようということになり、イタリアンの店を予約しました。
幹事を務めてくれたのは、クラスの委員長もしていた相良さん。しっかりものの美人で、学生時代にはファンクラブまであった人でした。
今回参加できたメンバーは全部で6人。ですが、実際には7人が参加していました。
その中で私は一人の女性のことが気になっていました。
緩やかなウェーブの髪型に、ナチュラルメイク。とても存在感のある人でした。
(誰だっけ?名前、出てこないな)
見覚えのないその女性は、皆の輪の中に自然に溶け込み、和気あいあいと話しています。
きっと度忘れしたのだろうと思い、私は女性のことはあまり気にしなかったのです。と、ふと女性がこちらを見て視線が合ってしまいました。
「久しぶり」
笑顔で言われて戸惑いましたが、名前を聞くのはなんだかとても失礼な気がしたので、そのまま会話をしていました。
なぜか、彼女は私の事情にやたらと詳しいのです。
その頃、私は仕事を転職したばかりで、生活がバタバタしていました。
「新しい仕事には慣れた?大変でしょ」
と、気遣ってもくれて。なんだか彼女の名前を思い出せないのは申し訳ない気がしました。
話題は、学生時代のことにも及び、お世話になった先生の名前や、記憶に残った出来事。どれも合っています。
誰だっけ、誰だっけ。と、考えてやっぱり名前がわからないのは申し訳ないと思って、さりげなく隣に座る林さんに聞いてみました。
「彼女、誰だっけ?」
と、言うと林さんも「私も気になっていたの」と言うのです。
彼女も、心当たりがないらしいのですが、やたらと内情に詳しいので、きっと同級生だろうと。
その後も、他の人にさりげなく聞いてみても、知らないの連続でした。
私は、幹事の相良さんに彼女のことを聞きました。ですが、相良さんでさえ知らなかったのです。
「私も知らないのよ。でも、あったときにあだ名で呼ばれたから、きっと同級生だろうと思って」
相良さんは、学生時代は『相良っち』と呼ばれていて、彼女はそれを知っていたと言うのです。
「そういえば、昔もあったわよね。ほら、高三のときの文化祭」
言われて思い出しました。名前がわからないクラスメート。31人しかいないのに、32個置かれていた紙コップ。
「あのとき、しばらく噂になってたよね。もう一人いるって」
「やめてよ、相良さん」
当時、正体不明のクラスメートのことはかなり話題になっていたのです。噂が噂を呼んで、内容がかなりホラー的なものになっていたのです。
なんでも、その昔。学校の裏に野生の薔薇が咲いていて、その薔薇を取ろうとした女子高生が崖から落ちたそうなのです。
「ほら。文化祭の最後に、その子がいた場所には薔薇の蕾が落ちていて、きっと崖から落ちた女子高生が来てたんだって」
「もう、やめてよ。本当に怖かったんだから」
それが本当かどうかはわかりませんが、確かにそんな噂が流れていました。青春を謳歌できなかった女子高生が、文化祭に参加していたという噂がしばらく流れて、怖がりの私は学校に行く度にビクビクしていました。
「それにしても誰かしら?6人でって予約したのに、来たら7人でしょ?困っちゃった」
でも、と相良さんが続けます。
「不思議なのが、うちの夫婦仲まで知っているの。昨日、ケンカしたとか、旦那の浮気が発覚したとか」
「え?旦那さん、浮気したの?」
「そうなのよ。とりあえず、お小遣いなしで許してやったわ」
ですが、誰にも言っていないことをなぜ彼女が知っていたのでしょう。
私と相良さんが彼女の方を見ると、
「いないわ」
そこには、誰もいませんでした。私と相良さんは入り口の方を背中に座っているので、帰るとしたら絶対に通らなければならないはずなのに、誰も通りませんでした。
他の人に聞いても、誰も知らないと言うのです。
店の人に聞いてもわからず、不可思議でなりません。
彼女が座っていた席には飲みかけのローズティが残されていました。
一体、彼女は誰だったのでしょう。
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