彼女は私に会釈して、「セックスしませんか。一回五千円です」といってきました――。
古ぼけたアパートの一室で絞殺された娼婦、その昼の顔はエリートOLだった。なぜ彼女は夜の街に立ったのか、逮捕されたネパール人は果たして真犯人なのか、そして事件が炙り出した人間存在の底無き闇とは……。
衝撃の事件発生から劇的な無罪判決までを追った、事件ノンフィクションの金字塔。
Amazon書籍ページより引用
この事件は1997年に東京都渋谷区で起きた殺人事件で、本書は事件から3年後の2000年に初版発行されています。
私が本書を最初に手にしたのは、実を言えば、この殺人事件から14年も経った2011年3月11日の東日本大震災直後、まさに東電福島第一原子力発電所が爆発した当時なんです。
それまでは正直、この事件自体、東電勤務のエリート売春婦が殺害された特異な個別案件でしかなく、あまり気にも留めていませんでした。
しかし、日本の自然を破壊した福島第一原発の爆発に対する東電や政府の様子を見ていて、この会社はかなりおかしい怪しいと言う印象を受けたのがきっかけになって、本書を手にすることになり、読んでみて、実は非常に奥の深い日本の反原発を推進していた闇に包まれた女性の殺害事件であることを認識しました。
と言うのも、「東電」でネット検索すると、必ずこの「東電OL」が出てくるから、誰でも嫌でも気になってしまいます。これもある意味、亡くなった渡邉泰子さんの足跡とでも言うのでしょうか、生きた証なのか、はたまた東電や日本に対する呪いなのか、いずにせよ、彼女はネット上で永遠に生きています。
思えば現代の日本において、この東電と言う会社に限らず、既得権益を死守する政治家や官僚や役所や他の大企業など、日本の全ての組織に共通している不治の病で持病なのかもしれません。
今回の東電の一件は、本来であれば全てを正直にオープンにしなければならないどんな緊急事態であっても、組織にとって不都合な情報に関しては、上役に迷惑が掛からない様に忖度することが礼儀なのか変な常識になっている現代日本社会を象徴するように感じます。
そして、最近また斜め読みではありまするが、本書をザっと読み直してみました。長い時間が流れたせいなのか、最初に読んだ頃とは全く違った感触を得ました。
この殺人事件が起きまでの過程と要因、そしてその被害者と司法と言う3種類の闇を暴き、さらにその被害者の怨念が乗り移ったかのような著者の本書に込めた魂を痛感しました。
読めば読むほど、渡邉泰子さんの無念さを感じ得ざるを得ず、また、ここまで落ちてしまった彼女の真因を追求したくならざるを得ませんでした。よって、どうしても本書だけでは収まり切れず、更にその奥深くが気になりました。
私は、この本を読み、さらに関連の本を読んで行く内に、殺害された渡邉泰子さんをこのような状況に追い込んだ根本原因を知りたくなった訳ですが、その真因がもしも、原発政策に反対していた彼女や彼女のお父さまが勤務していた東電に在って、その原因が実は反原発推進派への人格破壊や存在の抹殺だったとしたら、その闇は深すぎて、彼女の死をただの東電管理職エリート娼婦の死で終わりとして片づけるわけにはいかなくなります。
その後に起きた福島第一原発メルトダウンや爆発による放射能汚染は、彼女の死から既に今の日本の様に、日本が放射能汚染で病んでいく未来を暗示していて、それに目を背けていた日本に対する罪と罰だったのかもしれません。(ちょっと考えすぎかもしれませんが。。)
警視庁も検察も、本当はもうこれ以上この東電OL案件にはあまり深入りしたくないのが本音なのでしょうけど、殺害された彼女のことやあくまで真実を追い求める世論を鑑みれば、未解決の今のままではあまりにも悲しく悔しい気持ちになります。
いつの日か、渡邉泰子さんを殺害した本事件の真犯人が捕まることを切に願っています。
・タイトル:東電OL殺人事件
・著者:佐野眞一
・出版社: 新潮社 (2003/9/1)
・ジャンル:ノンフィクション