【投稿者:kanaさん】
小学生の修学旅行で、とある観光ホテルに泊まりました。
そのホテルはいつからそこに建っているのか、一目見ただけで古いことが分かるくらい外壁がボロボロで、中に入るとカビ臭く、何だか異様な雰囲気を感じます。
生徒は皆怖がっているし、先生達も「パンフレットと全く違いますね…」なんて話し合っていて、その日このホテルに泊まるのを誰もが嫌がっていました。
しかし今更ホテルを変えることなんて出来ませんし、第一、この近くに何十人もの人々が泊まれる施設はありません。
結局は先生達に宥められ、そのホテルに泊まることになりました。
当時、私の学年はクラスが3つあり、クラスごとに順番に大浴場に入って、その後は大広間で全クラス一斉に夕食を食べたと記憶しています。
そして、私のクラスは女子が28人いた為、14人ずつに分かれて大部屋に泊まることになりました。
その大部屋は、14人の子供が一列に布団を並べて寝ても余裕があるくらい広い、畳敷の和室でした。
部屋に入って真正面に大きな窓があり、日中はそこから海が見えるようですが、夜は外に明かりがないので何も見えず、真っ暗闇の中に波の音が聞こえるだけです。
古い建物に波音というシチュエーションに私含めその部屋の女子達は怖くなり、窓の外が見えないようにカーテンをしっかり閉めてしまいました。
修学旅行と言うと、肝試しだったり恋話なんかしたり、あるいは他の部屋に遊びに行くこともありそうですが、ホテルの雰囲気に圧倒され、そんなことをする気分ではありません。
他の部屋の子達も同じなのか、誰も部屋に遊びに来たリしなかったのもあり、私の部屋の女子達は大人しくそれぞれの布団に入り、早々に眠ってしまいました。
どれくらいの時間、眠っていたでしょうか。
誰かに名前を呼ばれたような気がして目が覚めました。
布団から上半身を起こして両隣を見ると、そこで寝ていたはずのAちゃんもBちゃんもいません。
(トイレにでも行ったのかな?私も行ってこよう)
そう思って立ち上がった瞬間、異様な光景が目に入りました。
私以外の同部屋の子達が皆、窓の方を向いて立っているのです。
閉まっていたはずのカーテンは開いており、どうやら皆は窓の外をじっと見ているようでした。
いないと思っていたAちゃんとBちゃんも窓の方を向いて立っていたので、そっと近づいて声をかけたのですが、何も返答が返ってきません。
それどころか、目の焦点が合っておらず、口の端からは涎が垂れています。
他の子達も同じような状態で、怖くなった私は隣の部屋の子達に助けを求める為に部屋を出ようと、窓に背を向けました。
しかしその瞬間、誰かに無理やり、体ごと窓の方を向かされたのです。
(何これ!何が起こってるの!?)
慌ててもう一度窓に背を向けようとしますが、金縛りに遭ったかのように体が固まって、全く動きません。
大声で叫んで助けを呼ぼうとも思いましたが、喉が圧迫されていて、「こひゅ、かひゅっ」という声にならない声しか出ないのです。
体を動かせない、声も出せない状況にパニックになっていると、窓の外に何かがいるのに気づいてしまいました。
それは、赤いペンキを全身にかけたかのような、頭から足元まで真っ赤な女の人でした。
女の人は宙に浮いていて、こちらを見ながらおいでおいでをするように、指先まで赤く染まった片手をゆっくり上下に動かしています。
見てはいけないと本能で察しましたが、ゆらりゆらりと動く女の人の手から目を離せません。
その手を見ているうちに、段々と頭がぼんやりとしてきました。
(皆もあの手を見たから、あんな状態になってしまったんだ…)
(このままあの手を見続けていたらどうなってしまうんだろう、でもまぁいいか、どうでもいいか。うん、どうでもいい、何もかもどうでもいい…)
とうとう何も考えられなくなってきたその時、部屋の扉が勢いよく開く音とともに、切羽つまったような担任の先生の「大丈夫か!?」という声が聞こえたのです。
先生の声が聞こえた瞬間、赤い女の人はふっと姿を消し、私は頭がはっきりとしてきて、体が動かせるようになりました。
他の皆も、意識がはっきりして体が動かせるようになったみたいで、恐怖で顔を歪ませながら走って部屋を飛び出して行く子や腰を抜かして座り込んでしまう子もいました。
そして、気分の悪い子は先生に付き添われて他の部屋に連れて行かれ、それ以外の子は違う部屋に移ってそこで眠ることになったのです。
しかし、先程の恐怖体験が脳裏によみがえってきて眠れず、結局私も他の子達も、一睡もせず朝を迎えました。
翌日、先生に昨日の夜のことを聞きましたが、「子供は知らなくていいんだ」としか返してくれません。
どうしていきなり部屋に入ってきたのか質問しても、「ちゃんと寝てるか見回りしてたんだよ」と、何かをはぐらかすのです。
それならばと勇気のある子がホテルの従業員の方に「このホテルって何かあるんですか?」と聞いたのですが、「いいえ、何もないですよ」と言うだけでした。
結局あの夜のことは、子供の集団ヒステリーとして片付けられてしまったので、真っ赤な女の人の霊がどういう意図で現れたのか、誰も分かりません。
あのまま、おいでおいでをする赤い手を見続けていたら私達はどうなっていたのでしょうか…、想像するのも本当に恐ろしいです。