【投稿者:なのさん】
友達の優子(仮名)が、ある日いきなり家に来て、「預かってほしい」と言って1体の人形を渡してきました。
金色の髪に青い目で、ゴシック調のドレスを着せられた、60cmくらいの大きさの西洋人形です。
高そうですが、よく見ると全体的に薄汚れているし片腕が欠けているのもあり、その人形から不気味な雰囲気を感じました。
「預かってって言われても、何か怖いし、嫌だよ。優子の人形じゃないの?」
「私のじゃなくて、拾ったの。○○市にある廃墟、知ってる?この前、彼氏と肝試しに行ったらね、そこで落ちていて……。1人ぼっちで可哀想だったから、思わず連れて帰っちゃった」
優子の言う廃墟とは、30年前に殺人事件が起きたという噂のある一軒家です。
生き残った住民が引っ越した後は買い手が付かずそのままの状態になっていて、今では「入ると呪われる心霊スポット」としてその近辺では有名でした。
「ちょっ、、連れて帰っちゃったって、勝手に持って来たらダメじゃん! 元の場所に返しなよ。私は嫌だよ」
「ええー?あの家、電気通ってないし、昼間でも暗くて怖いんだよ。もう1回行くなんて無理。それより、この人形、預かってくれない?明日1日だけでいいから!」
「何で?そんなに気に入ってるなら優子の家に置いておけばいいじゃない」
「明日、私の家にお母さんが泊まりに来るの。お母さんに見つかったら勝手に捨てられちゃう。ね、お願い!明後日の朝には絶対引き取りに来るから」
本当は、こんな不気味な人形を預かるなんて絶対に嫌でしたが、優子が必死に頼んでくるので折れてしまい、しぶしぶ1日だけ預かることにしました。
(優子はこの人形のどこが気に入ったんだろう?見ているだけで呪われそう……)
優子が帰った後、預かった人形を棚の上に置き、じっと顔を見つめながら「私だったらこんな怖い人形絶対に持って帰らないし、万が一家族が持って帰って来たら速攻捨てる」などと考えごとをしていると、一瞬、人形と目が合った気がしました。
「わぁっ!」
思わずのけぞり、後ろに2歩3歩と下がってそっと様子を伺うと、人形は相変わらずどこを見ているのか分からない、焦点の合っていない目をしています。
(……気のせいか。怖いと思っているから、人形と目が合ったなんて変なこと考えてしまうんだ。さっさと寝て、優子が人形を取りに来るまでなるべく考えないようにしよう)
そう決断して、人形については一旦忘れ、寝ることにしました。
しかしベッドに入り、スマホを触りながらまどろんでいると、他の部屋から何かが落ちる音と、その後に小さな子供のような軽い足音が聞こえてきたのです。
音の聞こえた方向から考えて、リビングから音がしたように感じました。
リビングには、優子から預かった人形が置いてあります。
(もしかして、あの人形が自分で棚から降りて、部屋の中を歩き回ってるとか?)
その様子を想像した瞬間、恐怖でゾッとしましたがそんなことが起こる訳がありません。鼻で笑いつつも、再び目を閉じるも、やはり足音のような音が聞こえてくるのです。
その足音はゆっくりとですが迷いなく、私のいる寝室へと近づいてきている感じがしました。
さすがに慌ててベッドから降りて、まさかとは思いつつも、扉が開いても人形が入ってこれないように、寝室の扉の前に椅子を置いて簡易的なバリケードっぽいものを作って足音を伺いました。
やがて、その足音は寝室の前で止まったかと思うと、
コンコンッ
扉をノックする音とともに、「開けて」という女の子の声が聞こえてきたのです。
「開けて、お姉ちゃん、開けてよぅ」
「ねぇ、開けてよぅ、お姉ちゃん、早く開けて」
「早く早く早く」
「……」
「○○ちゃん、開けて、優子だよ」
「○○ちゃん、優子だよ、ねぇ、○○ちゃん、無視しないで」
「○○ちゃん、○○ちゃん、○○ちゃん、○○ちゃん」
私は絶句して何も答えれずにいると、甘えるような女の子の声は友達の優子の声に変わり、私の名前を呼び始めました。
扉の前に優子がいるはずありませんし、開ければ何が起こるか想像が出来ません。
私は恐怖のあまり呼び続ける声を無視して頭から布団をかぶり、優子に「預かれなくなったから朝になったらすぐ人形を取りに来て!」とLINEを送って、朝になるのを震えながら待ちました。
いつの間に寝ていたのか、部屋に響くインターフォンの音で目覚めました。
握っていたスマホを見ると、優子から「仕方ないね、分かった。朝一で受け取りに行く」「家着いたよ!」というLINEが来ていて、どうやらインターフォンは優子が鳴らしたようです。
バリケードをどかして、そっと寝室の扉を開けるとそこには何もおらず、人形は昨夜と同じ位置にありました。
不思議に思いながら玄関を開けて優子を迎え入れ、人形を渡すと、優子は「母親が家に来る前に彼氏の家に置いてくる!」と言ってすぐ帰ってしまいました。
優子が帰った後、
「昨日の足音と声は夢だった、、? まあ人形が動くはずないし」
と、半ば強引な思い込みで安堵しつつ寝室に戻り、もうひと眠りしようとした時です。
寝室の扉の前に、金色の長い髪が数本落ちているのに気づきました。
私は黒髪で、優子は茶髪ですし、金髪の知り合いなんていません。
長さ的にあの人形の髪、、のような気がするのですが、深く考えると良くないことが起こる気がして、すぐティッシュで包んでゴミ箱に捨てました。
それから数週間後、優子と会う機会があったので、例の人形について聞いてみました。
優子の話しでは、これといった怪奇現象は起きていないようです。
それなら良かったと思いつつも、優子の身が心配な気持ちもあったので、「元の場所に戻したり、捨てたりしないの?」と訊ねました。
すると、優子は「そんなことしたら、あの子が悲しむでしょ?私はあの子と、ずっと一緒にいてあげるの」と、恍惚とした表情を浮かべながら答えたのです。
その時の優子の顔が、一瞬あの人形とそっくりに見えて、私はそれ以上何も言えませんでした。
優子とはそれ以来、連絡が来ても忙しいフリをして会わないようにしています。
優子が、あの人形に体を乗っ取られていたらと思うと、恐ろしいからです。