【投稿者:月詠さん】
就職先の私の先輩はたまに変なことを言う人でした。
『触らないでくれ』
誰に言ってるんですかと聞くと、俺のそばに立っている女性が君には見えないかな?
そう言われたことがありました。
初めて言われたとき、私はちょっと変わった人が上司になったんだなと思っていたのです。
その後も先輩は時より私には見えない誰かと話していました。
『おはよう』
『会いたかった』
『お疲れ様』
正直頭がおかしい人なのかと私だけではなく、何人か一緒に仕事をしていた人も言っていました。
しかし、何故だか見ているうちに本当にこの人は誰かと話しているのではないかと思い込むようになってきました。
毎日毎日、ずっとではありませんが、必ず話しているタイミングがあったものですから…
そして、その姿を見るように慣れてきた頃、私は先輩にもう一度聞いてみました。
正直誰と話しているのか、ずっと気になっていたのですから。
間違いなく周りの人達も気になっていると思いました。
『先輩、もう見慣れてきましたけど一体いつも誰とお話ししているんですか?』
先輩はこう返してきました。
『やはり君には見えていないんだね?』
『俺は取り憑かれてる』
怖かった。
初めて聞いた時よりも何故か説得力がありました。
誰に取り憑かれてるのかを問うと、2年前に自殺した彼女だと言いました。
先輩自身がたくさんのことで悩ませてしまい、支えてくれていた彼女さんがもう私には何もできない、そして何もできないことが自分のせいだと遺書を残して自殺したと言うことです。
その彼女が先輩を恨んで取り憑いていると言うのです。
信じ難い話でした。
その彼女を慰め、今まで悪かったという気持ちを彼女の霊に語りかけていたと言うことになることをどう信じたらいいのかわからなかったです。
彼女は自分の思った時に現れ、そして首を絞めたりと先輩に同じ思いをさせようとしていると先輩は言っていました。
そして彼女にこう言われたそうです。
『次の私の命日に、私はあなたの命をもらう』
先輩はその話のことを信じてはいませんでした。
実際にそんなことまでは流石にあり得ないだろうと。
ただ、自分がした彼女への苦しみはこの先償っていきたいと話していました。
事実、先輩は1週間に一度の墓参りや彼女への問いかけを欠かさず行っていました。
それから一年経ちました。
今はと言うと、先輩は彼女さんと天国で仲良くやり直していると思います。
命日の次の日、先輩は仕事に来ませんでした。
一人暮らしをしていた先輩は、命日の夜に心臓発作で亡くなってしまったのです。
休みの連絡もなく仕事に来なかったので、こちらから連絡をするも返事が来ず、(当時先輩の部下だった私が)やむなく自宅へ行ったところ、居間で倒れていたのを発見したのです。
本当にこんなことが起きるのか。。と思ったのが正直な感想です。
ただ、先輩は倒れている時、笑っていました。
自分のせいで苦しめた彼女の元へ行けることが嬉しかったのかもしれません。
本当の愛情が芽生えた瞬間なのかもしれません。
生まれ変わったらきっと二人ともいい人生を歩むでしょう。
現実とは思えない不可思議なお話でした。