【投稿者:M.Kさん】
私が大学生の頃の話です。
友人のRは、とてもおとなしくて黒縁眼鏡をかけた、どこにでもいる普通の女の子でした。
発言も少なくて、周囲が男の子の話題で盛り上がっても、恋愛には興味がないからといって、全く輪には加わらなかったのです。
そのRに、初めての彼氏ができました。
2歳年上の23歳の人で、ちょっと外見がチャラチャラしていて、私や他の友人は交際することを反対しました。
噂では、その先輩に騙されたり、泣かされたりした女性は数知れずで、女子の間では要注意人物として知られていたからです。
でも、Rは私たちの反対には耳を貸してはくれず、先輩のためにお弁当を作ったり、マフラーを編んだりと、けなげに尽くしていました。
実は、Rと先輩の家は近くて、家族ぐるみで仲が良かったらしいんです。
その姿に、私たちはこの恋が彼女にとって特別なものなのだということを感じました。
だから、彼女の恋を精一杯応援することにしたのです。
そして、Rの健気さは先輩にも通じたらしく、先輩は金髪から黒髪になり、ピアスもしなくなりました。派手な女性関係も控えるようになり、私たちはRの嬉しそうな顔にホッとしました。
それから数ヵ月後。
Rは、先輩との間に赤ちゃんができて、結婚しました。大学生同士の結婚ということもあって、双方の両親は大反対をしたのですが、互いの気持ちは固く、結局根負けしたのだそうです。特に、先輩のお父さんは大反対したのですが、お母さんに説得され、渋々納得したらしいんです。
Rはとても幸せそうでした。大きなお腹を撫でながら、いつもニコニコしています。
「嬉しそうね」
というと、Rはすごい幸せだって言うんです。
そして、まるで天気の話でもするように、明るい笑顔で、
「でも、先輩の子じゃないけどね」
と言うのです。
え?と私が彼女を見ると、彼女な楽しそうに続きを話し始めました。
「この子。先輩のお父さんの子なの」
誰にも内緒にしてね。と、彼女が笑います。でも、その目だけは笑ってはいませんでした。
Rの話によると、大学生になると同時に、ずっと好きだった先輩のお父さんと不倫関係になったそうです。
でも、Rが結婚を匂わせたら、急に態度が変わり、別れ話を切り出されたそうです。
そこで、Rが考えたのが、先輩との結婚でした。
「挨拶に行ったときの、あの人の顔。面白かったわ。あなたの子よ。って、耳元で囁いたら真っ青になっちやって、おかしいったらなかった」
空を見上げて高らかに笑う彼女は、はっきり言って常軌を逸してました。
「この子が生まれたら、皆の前で言ってあげるの。この子の本当のお父さんの名前」
クスクスと笑うRに、背筋がゾクッとしたのを覚えています。
真面目で優しかった彼女の面影は、どこにもありませんでした。
それからほどなくしてRが出産をすると、先輩は大学に来なくなりました。先輩の友人の話では、人間不審に陥ったらしく、誰とも会いたくないと泣いていたそうです。
Rは、先輩とすぐに離婚をして、半年後にはある会社の社長令息と再婚をしました。
新しい家庭で、彼女は幸せに暮らしています。
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