【投稿者:半田ふみさん】
K子ちゃんは私の中学の友達です。
快活でボーイッシュな女の子でしたが、不思議と私をはじめ、大人しい子が多いグループの居心地がいいようでした。引っ込み思案な私たちは、K子ちゃんのハッキリとした言動にたびたび助けられました。
その反面、K子ちゃんには変わったところも多く、特に目を引いたのは虚言の多さです。あまり意味がないような小さな嘘をちょくちょくつくのです。「自分には霊感がある」という発言はその最たるものでした。
とはいえ、中学生という生き物には多かれ少なかれそういう部分があります。自分の特徴を誇示したり、ちょっとした嘘をついたりして、自分は変わっている、自分は特別だと主張したくなるものなのです。
私も(おそらく、私以外の子たちも)多少なりとも身に覚えがあったため、K子ちゃんの虚言については時々鬱陶しく思う程度で、それによってK子ちゃんを嫌いになったり、邪険にしたりといったことはありませんでした。
ある日私は、K子ちゃんと一緒に市民プールに行きました。
更衣室で着替えている間、K子ちゃんは例によって「水に関する場所には霊が出やすい」と霊感の話をしていました。私はK子ちゃんの話に「そうなんだ」と適当に相槌を打ち、話の内容はあまり気に留めていませんでした。K子ちゃんも言葉ほど「プールの霊」に警戒心は抱いていないようで、2人してウキウキと着替えを済ませ、プールに入りました。
私たちはお互い、プールで「遊ぶ」よりもプールで「泳ぐ」ことが好きなたちで、流れるプールやウォータースライダーには目もくれず、クロールや平泳ぎなどで水泳用レーンをひたすら往復しました。
最初は楽しく泳いでいた私たちですが、そのうち、K子ちゃんの顔がなんだかムスッとしていることに気が付きました。疲れたのだろうか、と思い声をかけると、「誰かに痴漢された」とのこと。
私は周りを見渡しました。私たちが泳いでいるレーンは私とK子ちゃんしか使っていませんでしたが、その両隣のレーンでも常に1~2人の男性が泳いでいました。確かに、すれ違いざまに痴漢することは可能なように思えます。
でも、私はK子ちゃんを言葉では心配しながら、頭では「またいつもの虚言だろう」と思っていました。
だから「もうプールを出よう」というK子ちゃんに「私はもう少し泳ぎたい」と伝え、私ひとりで残ったのです。
私はしばらく、ひとりになったレーンをのんびりと往復しました。両隣の男性とすれ違うたびに、少しドキッとはしましたが、彼らは泳ぎに集中しているようですし、やっぱり何もなかったんだ、と思うようになってきました。
ところが。プールの半ばで、私の太ももに触れるものがありました。
(うわっ、本当に痴漢だ!)
私は驚きのあまり、反射的に泳ぐのをやめ、その場で水面に顔を出して周囲を見回しました。
しかし……私のそばには、誰もいなかったのです。
K子ちゃんの霊の話、そして痴漢の話が、私に妙な感覚を引き起こさせたのでしょうか。
きっと気のせいだと、今でも思うのですが…あの指としか思えない数本の物が当たる、ヌルっとした生々しい感触は、不気味なくらい鮮明に覚えています。