本記事はYoutubeにて朗読コンテンツにもなっております。
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【投稿者:半田ふみさん】
これは、私の高校の同級生・Mに聞いた話です。
私たちの高校はそこそこの田舎にありましたが、Mが住む場所はさらに田舎で、電灯もポツリポツリとしか立っておらず、夜になると道はほとんど真っ暗になりました。
Mはそんな田舎から、毎日40分近く電車に揺られながら高校に通い、夕方になるとまた40分電車に揺られ田舎に帰っていきました。
大変なのは冬です。授業を終え、部活を経て帰路に就くと、その時点で外は暗くなっています。
それから電車に揺られ、自宅の最寄りの駅に着くころには、日はとっぷりと暮れ、田舎は闇に包まれています。
慣れているけれど、暗い夜道をひとりで帰るのが時々怖くなる、とMは漏らしていました。
そんな冬のある日。いつもの学校生活に加え、商業高校特有の資格取得に向けた猛勉強、それに部活動と、忙しい日々を送っていたMは、外が暗いことも相まって、行き帰りの電車でうとうとするのが日常茶飯事になっていました。しかしどんなに疲れていても電車を乗り過ごしたことは一度もなく、Mもその点にかけては自信を持っていました。
その日もMは帰りの電車の中で、「あっ、次が自分の下りる駅だ」と直感し、浅い眠りから覚めました。電車はやはりタイミングよく止まり、目の前でドアが開きました。
やっぱり私には電車を乗り過ごさない才能があるわ、なんて思いながら電車を降りたMでしたが、降りた瞬間から何となく違和感がありました。周りはいつもと同じような風景です。人気もなく、電灯もほとんどない、駅だけが闇の中にぽっかり浮かんでいるような田舎の無人駅…。
Mは一応、ちらりと駅名板を見ました。するとそこには何の文字も書いてありませんでした。看板は真っ白だったのです。
いよいよ不安に駆られたMは、「ドアが閉まります」というアナウンスにハッとし、反射的に今降りたばかりの電車に再び乗り込みました。
進み始めた電車の中で、ドキドキしながら立っていると…「次はA駅」と、自分が降りるべき駅名のアナウンスが聞こえてきました。Mはホッとしました。
(やっぱり、降りる駅を間違えていたんだ)
電車は無事にA駅に着き、Mは無事家に帰ることができました。
しかし不思議なのは、あの真っ白な駅名板の駅は、一体どこだったのか、ということ。Mはその日の翌日、電車に乗っている間、通り過ぎる駅を注意深く見ていましたが、駅名板が真っ白の駅は一つも無かったそうです。
そもそも、毎日電車の中から同じ風景を見ているのに、駅名が不明とはいえそこがどの駅か分からないなんてあり得るのでしょうか…。
私は今でも、夜電車に乗るたびに、その話を思い出します。