【投稿者:こむたさん】
これは、学生当時の仲のよかったメンバーの身に起こった、今でも鮮烈に脳裏に残っている出来事をお話ししたいと思います。
私は男子校の高校で3年間を過ごしました。
共学校で学生時代を過ごされた方からすると、男子校といえば汗臭い泥臭いイメージかもしれませんが、同級メンバーの一体感はとても良くて深い絆みたいなものが育まれた大事な高校生活でした。
学生の頃が遠い記憶になった今でも、集まりの機会が必ずあって、方々に暮らす仲間たちが毎年地元へと集まってお酒を飲みながら昔話に花を咲かせています。
ある年のお盆休みに帰省した折、そんな旧友たちとのお酒の場に参加していたメンバーの一人が、学生当時を思い出しながらこの話を語りだしました。その場にいた全員が、当時のことをあまりに鮮明に覚えていたため、楽しいお酒の時間が一瞬、固まった記憶があります。
それは、高校を卒業して2年後のことです。
それぞれの道へ進んでいた私たちでしたが、仲の良いメンバー12人くらいで海へバーベキューをしに行こうという企画が持ち上がり、夏場の海へみんなで出かけました。
気合いを入れてバーベキュー用品を取り揃えてくる友人、付き合っている彼女を連れてくる友人、実家からの差し入れを持ってくる友人。
日帰り計画ではあったものの、久しぶりにみんなで遠出をする期待があって、みんな大はしゃぎだったことを覚えています。
私たちが訪れたのは日本海で、海水浴場から少し離れた場所でテントを張って楽しんでいたため、そのプライベートビーチの雰囲気が学生だった私たちの心を鷲掴みにし、なんとも言えないくらいテンションを上げてくれていました。
バーベキューの食材もほぼなくなった夕暮れ時、少しずつ曇り始めたのでそろそろ片付け始めようかと私は数人とテントをたたむ準備をしていましたが、まだまだ遊び足りないメンバーもいて、たしか5人くらいが海へ泳ぎに出ました。
車にクーラーボックスやキャンプ用品を積み込み始めていたとき、何やら騒がしい声が聞こえてきたので海岸に目をやると、海岸にいるメンバーが沖の方に向かって笑っていました。
海に目をやると、先ほど泳ぎに出たうちの1人が引き潮に流されて、必死で泳いでいる姿を見つけました。
メンバーの中ではどちらかというとイジられキャラなその友人の姿が、メンバーの笑いを誘ったのかもしれません。
ただ数分後、全員の様相が一変します。
沖に取り残された友人の姿が、泳げど泳げど離れて行くように見えたからです。
友人の顔は完全に正気を失っていました。
引き潮の流れが激しく、後にわかったのですがいわゆる護岸流だったようで、強い流される力に乗ってしまって、離れて行く彼を見て岸の全員は完全にあたふたしていましたが、ある1人が、
「あいつ、何してるんだろ。」
とぽつっと言いました。
よく見ると、必死で泳いでいた友人が、何度か泳ぐのを止めて、沖の方を振り返っていたんです。
「ヤバいから助けに行かなきゃ。」
「横に泳いだら戻れるかも。」
「浮き輪持って行くか。」
聞こえているかわからない大声で彼に叫びながらも、焦る私たちは助ける方法を考え、数人が浮き輪を持って泳ぎ始めました。
結果的に沖にいた友人は助けに行った友人の方角に泳ぎを進めることで、潮の流れから抜けて一命を取り止めることができました。水難事故を目の当たりにするところだったので、そのこともあって当時の記憶は鮮明です。
岸にたどり着いたその友人は当然憔悴しきっており、周りにいたメンバーも安堵感と安心からくる笑い話となって、帰りの車でもその話題がトピックスとしてあがりました。
ただ、
その友人と帰りに乗り合わせたメンバーが、気になっていたことを、彼に聞いたそうです。
「お前、あんなヤバい状況だったのにどうして反対の方を振り返っていたの?」と。
友人は、最初口籠っていたらしいですが、同乗者のメンバーにこう言ったそうです。
「自分の名前を呼ばれて振り返った。」
「少し後ろの方に、人の頭のようなものが見えて、こっちを見ていたような気がした。」
「2回目に振り返ったとき、まだその頭のようなものが近くに見えて、安心して力が抜けてしまった。」
と。
あの時その友人も含めて全員が錯乱状態にあったので、彼がどんな体験をしたのかは年を追うたび徐々に風化し、今ではその友人は「見間違いで勘違いだったと思う」とその話を振り返ります。
ですが、彼が残したその3つの言葉は、私たちにあまりにも生々しく、生き残っているのです。
なぜなら、僕たちメンバー間の数人にも、彼の後ろにいた、何か黒い物体らしきものが見えていたからです。
コメントを残す