「アイスクリームに賞味期限がないのは、冷凍保存している限りいつまでも食べられるから。」という、まことしやかな都市伝説(?)があります。
実際にはかなり味が落ちるようですが、氷漬け状態の保存性が非常に高いのは誰もが知る事実でしょう。
本書の冒頭でも、南極の氷の中から太古の人間の遺体が良好な状態で発掘されますが、これは考古学の世界では多くの実例があります。
氷の中から発見された古代人の遺体をめぐる策略…といった広告のあらすじを読んだ時、私が真っ先に思い浮かべたのはアルプスの実在ミイラ「アイスマン」でした。
ところが、本書での遺体は発見したNASAの研究チームも「古代人??」と疑問を抱いたように、実に現代っぽい恰好をしているのです。
時代測定をしてみれば、彼が死んだのはなんと4万年前、しかも着ているハイテク衣類の繊維は分別できない未知の合成繊維…。
怪しい、怪しすぎる!?となったあたりで急に米軍が関与を始めます。
遺体の存在を知った研究チームは口封じのため、事故に見せかけて全員が殺されてしまうのです…!
研究チーム内で唯一生き残ったリン博士は、遺体の証拠を手にしたまま必死に暗殺者の追跡をかわそうとし、信頼できる協力者として元夫に助力を頼みます。
この元夫というのがまた癖のある副主人公で、マスターキートン並みの戦闘スキルを有したサバイバーなのです。
彼が加わった後はアクション色も濃くなり、オカルト好きの皆さんであれば、極上のエンターテイメントとして楽しむことができる展開が繰り広げられます。
地下鉄の線路上を馬(!)で疾走するだなんて、絵になる面白さでしかありません。ふたりは各地のオーパーツにも触れながら、宇宙人陰謀論にまつわる「裏の政府」が隠している秘密に近づいていきます。
終盤はそう来るか!?と思えるくらいの王道が待っていますので、ぜひ楽しみに読み進めてみてください。
J.T.ブラナンは軍人経歴のある英国の作家で、この作品が処女作だそうですが、この「氷の奥深くから人類の起源にまつわる秘密が発掘される」という仕組みは、考古学ファンのロマンを誘う、秀逸なアイディアだと感じます。
奇しくも現在は環境破壊にともなう地球温暖化で、南極や山脈の氷解が止まりません。
近い未来、現実世界でもこういった氷の中から、太古の尊い存在…あるいは人類にとって危険きわまりない存在が、現れ出る日が来るのかもしれない…。
そんな想像をかきたててくれる、興味深い作品でした。
・タイトル:神の起源〈上/下〉
・著者:J・T・ブラナン
・出版社: SBクリエイティブ (2013/7/17)
・ジャンル:宇宙人陰謀論をモチーフにしたサスペンス小説