【投稿者:トウコさん】
小学低学年の夏休みに、家族で親戚の家へ行きました。
親戚の家はY県にあり、そこでは、お盆に海で灯篭流しをするという文化があったのです。
今は違うようですが、私が子供の頃は、山の麓にある先祖のお墓を参ってからすぐ傍のお寺で紙灯篭に火を灯し、その火が消えないように海まで持って行くという方法でした。
お寺から海までは歩いて10分程で、私は父から渡された灯篭を抱え、火が消えないようにゆっくりゆっくり歩いていきました。
先頭に親戚家族、私の前に父、右隣に母という並びで海まで向かっていたのですが、5分程歩いたあたりで後ろに誰かいるような気配を感じたのです。
そっと振り返ってみると、白いタンクトップに半ズボンで坊主頭の、私と同じくらいの年齢の男の子がいました。
(誰だろう、あんな子この辺にいたかな?)と不思議に思いながら前を向き、確認するようにもう一度後ろを向くと、男の子は消えていました。
親戚宅に私と同じ年代の子供がいないことは知っていたので、その時は、近所の子が灯篭流しに参加しているのだと思っていたのです。
灯篭流しが終わり、親戚宅に到着して、親戚家族や両親が家に入っていきました。
私も後に続いて入ろうとすると、くいっと服を引っ張られたのです。
振り向くと、そこには先程見かけた男の子が立っていました。
「何?どうしたの?」
訊ねると、男の子は親戚宅を指さして、「入っていい?」と聞いてきました。
(私の家じゃないから入っていいか分からない…。勝手に知らない人を家に入れたら駄目だよね)
悩んでいると、男の子は更に口調を強めて「家に入っていい?」と、聞いてきます。
何だか怖くなって、「私の家じゃないからわかんない!多分、入っちゃ駄目!」と言い、私は逃げるように親戚宅の玄関扉を開けて中に入りました。
玄関の中には靴を脱いでいる最中の両親がいて、私を不思議そうに見ています。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「えっと、さっき、知らない男の子がこの家に入っていいか聞いてきて…。駄目だよって言ったんだけど…」
「男の子?」
両親が玄関の外を見ましたが、そこにはもう誰もいないようでした。
「近所の子がこの家に何か用事があったのかな」と父に宥められてもモヤモヤが消えず、もう一度玄関の外を見ようと扉に手をかけたところで、親戚のおばさんが「家の中に入らないの?」と、声をかけてきました。
「娘が、知らない男の子にさっき声をかけられたみたいで…。この家に入っていいかって」
父が何気なくそう言うと、おばさんは今にも倒れそうなくらい顔色を悪くしたのです。
おばさんの突然の変わり様に、両親も私も驚きました。
「…それで、何て答えたの?」おばさんが小さな声で恐る恐る聞いてきます。
父が「駄目だって答えたようだけど」と言うと、おばさんは「それなら大丈夫ね」と、あからさまにホッとした様子です。
「近所の悪ガキとかだったの?」
父が冗談交じりに言うと、おばさんは「そうだったら良かったんだけどねぇ。ほら、晩御飯食べるから居間の方おいで。その後説明するから」と、すたすた歩いて行ってしまいました。
先程のおばさんの態度が気になり、集中出来ないまま食事を終えると、おばさんが不意に、「さっきの子のことなんだけどね」と語り始めました。
おばさんの話しでは、私が先程見た男の子は人間ではなく、「悪さをする妖怪や悪霊の類ではないか」、ということでした。
この辺りでは昔から、『お盆の時期になると妖怪や悪霊が現れ、生きている人に危害を加える』という話しが伝わっているそうです。
私が男の子に「家に入っていいか」と聞かれた時に、「入っていい」と答えていたら、家の中を荒らされたり、最悪の場合は取り憑かれていただろうと言われました。
悪さをする妖怪や悪霊の類は、招かれないと家の中に入れないらしく、間一髪で防げたようでした。
その日はとくに何もありませんでしたし、その後、親戚宅の近くで件の男の子を見かけたこともありません。
小さい頃はよく分からなくていつの間にかこの話しを忘れていましたが、大人になって思い出すと「本当に恐ろしい体験をしたな」と、身震いしてしまいます。